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そしてまた春が来て

その日、私は床の間で目を覚ました。
先日まで執筆作業をしていたため、どうにも眠い。眠くて眠くて耐えられない。
一応受験生の身分は終了し、来年度からは高専生となることが確定しているため、どうにもだらけてしまう。
これではいけないと思って昨日社会の勉強をしたが……全部忘れたという前に、思い出す努力くらいはしてみようか。
汗でべとべとの着物を脱ぎ、選択したばかりのきれいな狩衣を着る。

「ふぁ、ねむ。『いい胸毛の清盛、太政大臣』」

昨日一番最初に勉強した平安後期の出来事が語呂合わせとともに口をつく。いい調子だ。
そこから鎌倉、室町の出来事も思い出し、口にしていく。
ラストを飾るのは、下級生が考えてくれたむちゃくちゃな語呂合わせ。

「『ヒムミーセブンと叫んで島原・天草』、と」

重い瞼をこすり、ふと窓を見上げる。
鎧戸からすだれの様に漏れ出す光に気が付く。
朝だ、と、思考する前の、動物としての本能でわかった。
鎧戸を勢いよく観音開きする。
たった五畳しかない和室に、朝の光が満ちる。
東の空には太陽があり、雲の切れ間から世界を照らしていた。

「おー。綺麗だなー」

そう、感嘆の言葉を漏らす。
雲の切れ間から来る日光は御来光の如く、雪と数件の家しかないこの山奥の村を照らしている。
山には雪があり、神聖な空気が村に立ち込めていた。

「うん、そうだね」

いきなり、横から声がした。女の声。
家族構成を思い出す。父は母と海外旅行中、兄は東京の大学、弟と妹と私のみがこの家にいる。
現段階でこの部屋に存在することの出来る女性は、妹のみ。

「勝手に部屋に入るんなって」

「いいじゃん別に。兄妹なんだからさ。襲うつもりとかじゃ、ないでしょ?」

そういって体をこちらに乗り出してくる。
千早に紅袴を着用している妹は、和服の必然として下着など着ていない。
詳しく言うつもりはないが、目の前のそれよりもかなりすばらしい景色が垣間見えた。
素早く目をそらし、つぶやく。

「お前本当に中学生かよ」

「そーだよ。自分が一番知ってるでしょ?」

どういう意味だ。
心の中でそう突っ込みつつ、部屋の一部分を占領しているパーソナルコンピューターのエンターキーを押す。
赤いパイプが毛細血管のように張り巡らされるタイプのスクリーンセイバーがどこかへ吹き飛び、いくつかのタスクが開いているのがあらわになる。
一番最初に現れた、大窓で開いていた○○○を見る。
「の゛わ゛ーーーーーーーーーーーーーーーーーー」と叫んでいる口を片手で押さえ、もう片方の手が神速で右上の×マークを押した。

「どしたの?」

そう訊いて来る妹を無視し、次々と現れるハルヒサイトや新劇場版サイトを(お気に入りに入れるのは忘れずに)消していく。
残ったひとつのタスクを見て、動かしていた手をはたと止める。






モナー小説掲示板。
私が知っている中で三つあるそれのうち、住人達が「Ark」と呼称しているそれ。
早く動かしていたさっきまでの手を、今度はゆっくりと動かす。
まず、トップの連載板に入り、その中のひとつの作品を探す。
魔王と題されたそれの上にマウスのカーソルを重ね、リンクを開く。
突如、なくかしい記憶が体を駆け巡った。
この小説を書き始めた当初、私はいまだに虐められていた。今ではそれは見る影もないが。
そんな時、少しの自虐と、少しの義憤と、大部分の憂さ晴らしのために、この小説を書いた。
実際、今までのどの小説よりもスムーズに筆が進んだのを覚えている。
多分、こちらのほうがあっていたのだろう。
自分の中のドロドロした物を奥底に流し、表面はあくまで、殺伐とした中に希望を失わずに生きる人々の話。




『生きていると悲しい。でも、生きていることは悲しくない。俺達はここにいる。希望は、絶対に捨てない』

最後に、主人公がしゃべる予定のセリフ。多分、大幅に予定が変わらない限り、このセリフは出るだろう。
まぁ、予定が変わらずとも、心境に変化があれば別のセリフが挿入されるだろうが。



そう考えつつ、小説の画面を一気にスクロールさせる。
隣から、不満の声が上がった。

「あー!おにーちゃん、何で飛ばすのよー!読んでたのにぃー!」

無視する。
華麗にスルーし、画面を見る。
おや、と思った。
最初は気が付かなかったが、感想が付いていたのだ。
横でぎゃーぎゃー五月蝿い妹を払いのけ、その感想を読む。

「ああ」

口から、声が漏れる。それは、震えていた。
声と呼応するかのように、体が震える。
目から、熱い物が流れる。




私は、今では書いていた当初と同じ心境ではない。
これを書いた当初とは違い、私はいろいろなエンターテイメントから感動を貰った。楽しみを貰った。喜びを貰った。
だから、一つ一つ、書く事で返していこうと思っている。
自分の書いた文章を読んで、こうやって感想をくれる人がいる。
そんな人がいるから、私は書き続けられる。
私は幸せだ。
また一つ、元気を貰った。
もう一つ、返していこう。
キーボードに指を置き、走らせる。





冬が終わり、春が来る。
そうすれば私は高専生だ。
冬が来て、そしてまた、春が来るのだろう。

ごーかくしたよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!



絶叫とともに登場!それがロンギヌスのレーゾンデートル!(なんか違
ちなみに実話です。
両親の話は嘘です。

いやっほーう!

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