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BIOMONARD 〜OUTBREAK〜『発生』

ドキューソシティ、アソブレラのおかげで工業街として発達した街だ。
その大通りの一角に、ワインの味は超一流という、M'sBARがある。
そのBARは常連も多く、とても賑やかだった。特に、今日は。


「何故…何故…」
ギルバート(ギコ族)という男は、カウンターに腰を掛けて酒を飲んでいた。
「何故俺はS.T.A.R.S.選抜試験に合格できないんだ!!」
彼はグイグイ、と酒を飲みほした。たちまち、グラスは空になった。
「そりゃあ、お前の自業自得だ。」
彼の隣に座っている、ガッチリとした体型の男、モートン(モナ族)は言った。
するとギルバートは、すぐに反論した
「あぁん?!おれのどこが悪いんだゴルァ?!」
モートンはやれやれ、といった感じで答えた。
「お前、勉強して無いだろ?知ってても少数だろ?」
答えは的を射ていた。しかし、ギルバートはなおも反論した。
「ハァ?勉強なんてマンドクセエじゃないか!そんな楽じゃないものやってられっか?!」
「お前のそういうところが悪いんだよ」
「なんだと!」
二人の対立はさらに増していった。しかし…
「はいはい、そこまでにしましょう!」
M'sBARのウェイトレスである、シーナ(しぃ族)が間に入ってきたのだった。
「私は、モートンさんの意見に賛成ですね。やはり、勉強はしたほうがいいですよ」
ギルバートは肩を落としてこういった。
「なんだ〜優しいシーナちゃんまでそんなこというのかぁ〜」
「いや、でも悪い事じゃないですよ?もし合格したら…」
ギルバートは目を見開いて、こういった
「ええい!今日は自棄酒だ!兄ちゃん!もっと酒をくれ!」
カウンターで仕事をしていた男、ニック(フサ族)はゆっくりと振り返った。般若の形相だ…!
「いい加減にしてくださいよ!! あんたあれから領収書ばっかって全然払わないじゃないですか!?
今日という今日は払ってもらいますよ!!!!」
ギルバートは残念そうにこういった
「いいじゃねぇか〜傷ついたマイハートを酒で癒してくれたって…」


店内の外側のタルをテーブルとしていたターク(タカラギコ族)は静かに酒を飲んでいた。
内心、彼らの会話に興味が無いわけではなかったが、
聞き流すだけでも面白いのだろう、フッと口元に微笑みをこぼした。


「そうそう!あれきてる?名酒ニラ殺し!」
ニックはあきれた顔でギルバートにいった。
「駄目ですよ!あれは貴重品なんだから!」
「ギルバートさん?お酒は控えたほうが…」
ギルバートは怒りをあらわにした。
「なんだよ!けち臭い野郎だな!」
そこへ今まで黙っていたモートンが怒鳴り込んだ!
「いい加減にしろ!このアル中が!」
シーナは、ずっと黙っているモートンの親友、マックス(モナ族)の事を聞いてみた。
「あの?マックスさん、どうしたんですか?」
「おい、マックス、どうした?具合でも悪いのか?」
モートンが聞くと、マックスは答えた。
「あぁ、…なんだか、気分がな…」
そのやり取りを聞いていた一人のAA、マーク(モラ族)はすぐにマックスのもとへ駆け寄った。


「どうしましたか?」
「なんだか、気分が悪いそうだぜ」
マークは鞄から聴診器を持ち出した。
モートンは、まゆを上げた。どこかで…見たことある…
モートンの考えは、ギルバートの言葉で中断された。
「!確かあんたはTVで見た・・・マーク・ヤング先生では?!」
そうか!この人は天才外科医といわれたマーク先生か!
マークは、マックスを診察しながら答えた。
「はい、確かに私はマーク・ヤングです。ドキューソシティで外科医をやっています。」
今までやり取りを聞いていたシーナが言った。
「あの天才的な指を持つという外科医の?!」
すると、マークは控えめに言った。
「一応、私は外科医ですが・・・」


ガタン…
M'sBARにまた、新たな客が来た様だ。
しかし、それは惨劇の幕開けに過ぎない。
M'sBARは店員の極意で、来た客全てにはしっかり挨拶をする。という事をニックは習っていた。
しかし、挨拶というより、返したほうがいいような、泥酔しているような客だった。
「なんだあいつぁ?!」
ギルバートがやや大げさにしゃべる。モートンはそれを制し、小声で注意した。
「お客さんに向かって失礼だろ」
ドテン、という音とともにやや太り気味のマックスが椅子から転げ落ちた。
「わ、ま、マックスさん!」
「おい!大丈夫かよ?!」


ニックは、新しく来た客を帰すため、マイルドにこういった。
「すいません、うちは泥酔者は厳禁なんですが・・・」
・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・おかしい。
今までの客の中なら「泥酔なんかしてないぞゴルァ」などと反論したり、
黙って立ち去るものがいた。しかし、今回は黙っているだけだ。
「・・・・どうしまし・・・」
突如、客はニックの首筋に噛み付いてきたのだ!
「うわああぁぁ!!」
ニックは悲鳴を上げた!今まで経験のない鋭い痛みだった!
彼は客にタックルをした。客は吹っ飛び、道路上に転がった。
「く、くそ!」
彼はすぐに扉を閉め、鍵を掛けた。そこで痛みのあまり、座り込んだ。


「な、なんだこいつらは?!」
3名の客が窓側テーブルから逃げてきた。一体何が・・・
ギルバートは窓を見て悟った。
外の連中は正気を失い、皆一心不乱に窓を叩いていたのだ!
割られる…!
一人のうるさいフサ毛の客(言うまでもなくフサ族)はテーブルのタルを押し、扉を塞ごうとしていた。
それに習い、もう一人の客(ターク)もタルを押した。
奥にいた女性客(つー族)はおろおろしていた。


女子トイレで髪を切っていたダイアナ(でぃ族)は鏡をみておかしくないかを確認していた。
「ナンダカ、バーノホウガサワガシイワネ・・・」
ダイアナが移動しようとした時、ダクトから腐った人間が顔を出した。
ダイアナの悲鳴を聞いたギルバートは一目散に向かった。女子トイレに向かって(笑)。
「だ、大丈夫か?!」
見ると、壁から手が・・・、いや、よく見るとダクトから手が出ている!
「く、くそ!」
何か無いかあたりを見渡すとデッキブラシがおいてあるのが目に入った
「このドクソがぁぁぁぁ!!!」
渾身の一撃によりゾンビは動かなくなった。ダイアナに向かって、ギルバートはこういった。
「大丈夫か?姉ちゃん?」
「エエ、ナントカ・・・アリガトウゴザイマシタ。」
ギルバートは、見たこと無い人だ、いつ来たのだろう?と思いながらも、この恥ずかしい女性の聖域(女子トイレ)から出ようと思い、すぐに出た。


店内では、既にバリゲードが設置終わっていたが、窓を一心不乱に叩く音がより強くなり、
尚且つ、扉を叩く音も激しくなっていった。蝶番が壊れるのも時間の問題だ…
「ど、どーすりゃいんだよ!!」
フサ毛の客が叫んだ。耳に障るうるさい声だ。
「うるさいわね!少し落ち着きなさいよ!」
先ほど、窓側にいた女性客だ。かなり威圧感があるな…
そうだ、ニックの兄ちゃんは…
「ニックさん!立って!奥に行きましょう!」
シーナだ。ニックの容態は大丈夫だろうか?
「す、すまん…し、シーナ・・・キ、キズが…ふ、深くて…うご、けな・・・い…」
モートンが駆け寄っていった。
「大丈夫だ!ニック!俺の肩を使え!」
突如、何かが壊れる音がして、全員が扉を見た。蝶番が外れた!
「シ、シーナ・・・こ、これを・・・」
ニックは、必死にポケットに手を入れて青いタグのついた鍵をシーナに手渡した。
「こ、これで…スタッフルームを・・・」
シーナは叫んだ。必死に懇願する口調で。
「駄目よ!ニックさん!あなたもいっしょに!」
ニックは、シーナを突き飛ばした。やつらが、すぐそこまで来ていたのだ!
「ニ、ニックさん!!」
ニックは、ウィンクをした。シーナに向けて。
「あ、あとで…必ず…あ、会おう・・・」
ギルバートは、果たせない約束だ…と思った。いつもの彼なら、口に出していただろう。
しかし、ニックは大学時代からの親友だった。ニック、シーナは絶対に守るぞ!


1Fと2Fの階段通路だろうか?とにかく、この階段を抜ければ安全のはず…
扉を閉める際、奴らと目が会った。まずい、こっちにくる…
ギルバートは扉を押さえつけて焦り気味に言った。
「先にいけ!俺が扉を押さえる!!」
モートンはすまなそうな顔をしてマックスを連れて行った。マークは、
「すいません…」
といってマックスに肩を貸した。
すれ違いざまに、モートンがこういった気がする。
「無理はするな…」
ドアを叩く音が激しくなっている…
もう、限界だな…そろそろ、俺も逃げなくては…
ガシャン、とガラスの割れる音ともに、悲鳴が聞えた。
扉に鍵をかけ、階段を駆け上る…
階段の途中通路で、窓ガラスの破片を見つけた。
すぐそこにマークとモートンに肩を貸されたマックスが怯えている。
割れた窓ガラスを見ると、奴だ…ゾンビが今にもマックスを引き連れようとしている!
「てめぇは邪魔だゴルァ!」
ギルバートはとび蹴りをかますと、ゾンビは落ちていって、地面にたたきつけられた。
「いくぞ!」
「お、おう!」
重たいマックスに肩を貸し、3人がかりでやっと階段を上りきった。
するとスタッフルーム前にいた、フサ毛の客がこういった。
「お、おい!さっさとスタッフルームに入ってくれ!バリゲードを作るんだ!」
4人がスタッフルームに入ると、フサ毛の客は合板を使おうとした。
「あれ?合板だけじゃバリゲードにならないじゃないか!」
どこまでアホなんだ…ギルバートは内心、そう思った。
「ちょっと貸しなさい!」
あの気の強そうな女性客がフサ毛の客から合板を無理矢理奪い取った。
そして右手に持っていたネイルガンで次々と合板を貼り付けていった。


数分後、ゾンビが進入できなくなったスタッフルームに、生存者全員が集まっていた。
窓側にいた、無愛想な客が話を始めた。
「ここで俺たちが行動するのも何かの縁だ。自己紹介しておこうか。」
その客(ターク)がギルバートにサインを送ったので、ギルバートは渋々立ち上がった。
「俺はギルバート・ブロックマン。警察官だ。よろしくな」
順番的にいけばモートンだ。モートンの肩を叩いた。
「俺はモートン・ウェリトン。ガードマンをやっている。そこにいるのは同僚のマックス・ボウマンだ。」
続いて、マークが自己紹介をした。
「わ、私は、マーク・ヤング。ここドキューソで外科医をやっています。よろしくおねがいします」
次に、シーナが立ち上がった。
「私は、シーナ。シーナ・パーカーよ。このバーの店員。よろしくね」
次は無愛想な客の番だった。客を咳払いをして立ち上がった。
「俺はターク・スカイヤーズ。配管工だ。よろしくな」
するとフサ毛の陽気そうな男がスクッと立ち上がった。
「俺はフランク・バークリング。地下鉄の職員だぜ。よろしく。パズルが趣味で…」
フランクが話を続けようとしたところを、あの気の強そうな女性客が止めた。
「私はナンシー・ヴァンガード。新聞記者をやってるわ。よろしくね」
最後に、ダイアナがそっと立ち上がった。
「私ハ、ダイアナ・ベルズワース。大学生ヨ。」
モートンは、下から聞えるゾンビたちの声を聞いて、こういった。
「とにかく、奴らはいつここまでくるか分からない。そうなる前に脱出しなければ…」
「そーだな、モートンの言うとおりだ。さっさと脱出しねぇと・・・」
フランクが慌しく言った。
「あ?!逃げるたってどこにだよ?!第一、ここは2階だぜ?!飛び降りるなんていうんじゃないだろうな!」
すると、ナンシーがフランクにいった。
「アンタ、ちょっと落ち着きなさいよ!」
「…でも、オーナーとか、ニックさんが何か残してくれたかもしれないわ。まだ脱出できないとは限らないわよ」
ギルバートは、落ち着き払ってこういった。
「そうだな…じゃあ、部屋を調べるとするか」


すると、マークが言った。
「待ってくれません?よく考えたら武器を持っていないと危険では?」
ギルバートがウィンクした。
「大丈夫、俺にはこの45オートがあるぜ。」
するとモートンが言った。
「待て、全員が武器を持っているとは限らない、とマークさんは言ったんだろ?
俺はベレッタM92Fを持ってるぞ。マックスも拳銃は持ってる。」
タークは道具入れから何かを取り出した。
「非力だが…俺には折りたたみナイフがある。」
シーナも、殺虫スプレーを取り出していった。
「わ、私も、殺虫スプレーですが、一応あります!」
すると、タークが殺虫スプレーを要求したので、シーナは殺虫スプレーを手渡した。
しばらく、何か噴出口に小細工をしているようだった。
「よし、これで出来たぞ」
タークから渡された殺虫スプレーは火炎スプレーとなっていた。
ダイアナは、ギルバートから渡されたデッキブラシがあった。
「ワタシモ、デッキブラシダケド、ブキハイチオウアルワ。」
「私は、一応護身用にスタンガンを持っているから大丈夫だわ。」
マークも、包丁を片手に持っていた。
「わ、私も、カウンターで包丁を見つけた。」
全員の目線がフランクへと注がれた。
・・・・
・・・・・
「え?持ってないの、俺だけ?」
「ソ、ソイウコトニナリマスネ・・・」
「えぇぇぇ!!」
フランクは唇をかんだ。畜生、今日の占い、当たったよ…最悪だ…。


ギルバートはシーナに質問した。
「このフロア、あとは何の部屋が?」
「はい、休憩室…はバリゲードの向こうですから…オーナー室、ロッカールーム、それと屋上につながる部屋ですね」
「よし!じゃあみんなで分かれて部屋を探すとしよう。」
モートンが言った。
「待て、マックスはどうするんだ?」
すると、任せろ、という感じでマークが言った。
「私が見ておきます」
「駄目よ、一人で見てちゃ、バリゲードが壊れた時大変だわ!」
フランクは、また慌ててこういった。
「ちょ、ちょ、ちょっとまてよ!!バリゲード、壊れちまうのか?!」
焦るフランクに向かって、ナンシーが一喝した。
「ちょっとは落ち着きなさいよ!イラつくわね・・・」
ギルバートは、フランクとナンシーのコンビは最高だ、と思った。
タークは落ち着き払ってこういった。
「よし、じゃあメンバーを決めようか・・・」
ものの数分で、メンバーは決まった。

・マックスの看病
マーク(武器:包丁)
シーナ(武器:火炎スプレー)

・オーナー室の調査
ギルバート(武器:45オート)
ダイアナ(武器:デッキブラシ)
モートン(武器:ベレッタ)

・ロッカールームの調査
ターク(武器:折りたたみナイフ)
ナンシー(武器:スタンガン)
フランク(武器:なし)


〜オーナー室〜
「しかし…ベランダから見ても外はかなりの暴動だな・・・」
ベランダでボーっとしていたギルバートは呟いた。
「さっさとお前も調査しろ!」
モートンはデスクの引き出しを引っ張り、中を確認しようとした。
何故か、なかなかあかなかった。
「アラ?コレハ・・・」
ダイアナは観賞植物の中に、ハーブが置かれているのを見つけた。
「・・・そうだわ」
ダイアナはモートンにわけを話すと、スタッフルームへ戻っていった。


〜スタッフルーム〜
「大丈夫ですよ、マックスさん。きっと何とかなるはずです。」
「あぁ…す、すまねぇ…」
「そうですよ。マークさんを信じてください!」
マックスの容態は悪くなる一方だった。
そこへ、ダイアナがオーナー室から出てきた。
「ア、アノ・・・ハーブヲミツケタノデスガ・・・」
シーナはダイアナに微笑みかけた。
「ありがとう!」
マークは、何かを思いついたようだった。
「ダイアナさん、このハーブ、少しいただいてよろしいですか?」
「エ、エエ、イイデスケド・・・」
すると、鞄から薬剤帳のようなものを取り出し、ブルーハーブを痛み止めのカプセルへと変えた。
「す、すげぇな・・・」
「さぁ、マックスさん、これを飲んでみてください」
マックスはゆっくり、その痛み止めカプセルを飲んだ。
「あぁ…す、少しだが気分が良くなったよ・・・」
バン!
扉が叩き開けられ、怒号が聞えた。
「クソが・・・」
「何やってんのよ!このポンコツ!!」
「い、痛いぃぃ!」
ロッカルームから出てきたのは、フランクに肩を貸しているナンシーだった。
フランクはどうやらゾンビに攻撃されたらしい。
出血しているようだ。
「全く・・・あ、マークさん。こいつの手当てしてあげて。」
「は、はぁ・・・」
どうやらフランクは引っかかれたようだった。しかし、血が止まらないようだ。
「ち、血が・・・血が止まらないよう!」
「静かにしなさい!少し落ち着けないの?!」
ナンシーは苛立ちを隠せないようだった。マークは落ち着いていった。
「大丈夫、今止血してあげますよ」
消毒液を傷口に吹き付けると、フランクはまた悲鳴を上げた。そしてナンシーの怒号。いいコンビだ。
「ダイアナさん、レッドハーブをもらいますよ?」
「エエ、イイデスヨ」
「シーナさん、悪いのですがそれを取っていただけませんか?」
「分りました、これですね。」
ものの数分でレッドハーブが止血薬となった。
「フランクさん、これをつけて、しばらく安静にしてれば直ります」
「た、助かった・・・」
フランクはとても安心した。フランクはパニックになりやすいようだった。
「しかし…あのゾンビ、突然出でくるんだもの、驚いたわ!」
「…クソが…」
どうやら、タークがゾンビをナイフで倒したようだった。
「タークさん!怪我はしてませんか?」
「…問題ない」
マークは、疑問に思った。
何故、戦闘に関わっていないフランクが出血したのか・・・


〜数分前〜
ロッカールーム

「腹減ったな・・・」
フランクは相変わらずロッカー周辺をあさっていた。
「チョコレートひとかけらあげるわ、だから静かにしてちょうだい!」
やはり、ナンシーとフランクのコンビは最強だった。
「ん〜チョコはうまいな」
タークは、しばらく壁際のキーボックスを見ていた。
大半がさび付いて使えない鍵だったが、使える鍵を見分けていたらしい。
「これが使えそうだな…」
タークは、キーボックスの中に黄色いタグの鍵を取り、仕舞い込んだ。
フランクは探索に疲れ(というより、飽きて)窓ガラスに体を預けていた。
ガシャン!
突如ガラスがわれ、ゾンビが手を出してきたのだ
「ぬぉ!」
フランクはバランスを失い、ゾンビ側に体重を預けてしまった
ゾンビはフランクを引っ張り、フランクは徐々に窓ガラスから体全体が抜けていってしまうところだった。
「フランク!」
タークが真っ先にフランクを引っ張り、続いて遅れたナンシーも足を引っ張った。
「死ぬんじゃない!」
「ヤバイ!助けて!死にたくねぇよぉ!!」
タークがゾンビの腕を折りたたみナイフで数回突き刺すと、ゾンビは手を離し、
フランクはズルッとロッカールーム側に倒れこんできた。ゾンビも1体、引き連れて…
タークは仲間が全滅してはまずいと思い、こういった。
「フランクを頼む。ここは俺に任せろ」
ナンシーはフランクに駆け寄った。
「フランク!大丈夫?!」
「い、いてぇぇ・・・・血、血がとまらねぇよぉ・・・」
フランクが言うほど傷が深く無さそうなのでナンシーはホッとした。
しかし、相変わらず血が止まらないようなので、マークのところにつれていった。


「へぇ、そんなことがあったのね…タークさんは怪我は無いの?」
「無い。ナンシーがガラスを踏んで擦り傷を作ったぐらいだ。」
シーナは言われてナンシーの足を見た。確かに、少しすり傷がある…
「ナンシーさん、大丈夫なの?」
「問題ないわ。フランクの怪我もね。」
その時、オーナー室からギルバートとモートンが出てきた。調査が終了したようである。
「何を見つけた?」
タークが相変わらず無愛想に言った。ギルバートは答えた。
「酒」
「何だって?」
「酒」
モートンはギルバートを殴り飛ばした。
「アルコールボトルと、止血薬、それと9o弾薬程度だ。タークは?」
「こっちは黄色い鍵だけだ…」
すると、その時、簡易バリゲードを叩く音が聞えた。
「畜生!もう見つかったか!」
フランクが相変わらず慌てて言った
「どどどどどど、どーすんだよ!」
「あんたは黙ってなさい!!」
合板で出来た簡易バリゲードは複数のゾンビに叩かれ、ミシミシと音を立てていた…


「畜生!駄目だ!3Fへの通路はふさがってるぜ!」
ギルバートが焦り気味に言う。バリゲードは、前より大きな音を立てていた。
心なしか、ゾンビの声も多くなった気がする…
「ちぃ…」
タークが声を漏らした。これは…とてもまずい…
シーナは何か気づいたかのようにポケットを探った。ポケットには青いタグ鍵があった。
「お、おいシーナ。何するつもりだよ?」
「この鍵なら開くかもしれない!ニックさんが渡してくれた鍵なの!」
ギルバートを無理矢理どかして青いタグの鍵を3Fにつながる扉に差し入れると
スッと扉は開いた。
「ナイスだ!シーナ!みんな!早く行け!」
ガダン!!
「バ、バリゲードがああぁぁ!!!」
「あんたは落ち着きなさい!」
一同はダッダッダと階段を駆け上っていった。…フランクが一度転んだようだ
「イ、イタイ!」


階段を上り、扉を開けるとそこは酒倉庫のようだった。
「いいねぇ!酒、酒、酒・・」
シーナがギルバートに向けて一喝した。
「駄目ですよ!ネコババは!」
奥へと進んだ一同はシャッターを見つけたが、鍵が掛かっていて開かなかった。
酒倉庫の入り口まできて、用具室があるのに気づき、流れ込む一同。
そこもうやはり酒だらけだった。
「あ…」
言うが早いか、上からボトルが落ちてきた、シーナめがけて!
「うぉぉ!」
ギルバートがシーナを突き飛ばし、ギルバートの背中に酒のボトルが落ちた!
酒は割れて中身が出てしまった。幸い、シーナは無事のようだ。
「だ、大丈夫か?」
「あ…ありがとうございます!」
「ギルバートさん、怪我のほうは?」
「たいしたこたぁねぇよ。服が濡れたくらいかな」
マークが心配そうに聞いたがギルバートに怪我は無かった。
「それより、シーナちゃんをみてくれ。俺が突き飛ばしたから怪我をしてるかもしれない。」
「私は大丈夫です!怪我はしていませんよ」
そのムードを破壊するかのように、フランクが言った。
「それにしても腹減ったな…」
………
…………
しばしの沈黙の後、ナンシーがフランクを部屋の隅に連れて行った。
「アンタねぇ、空気読めないわけ?ギルバートさんがせっかくシーナちゃんを助けて
いいムードになっていたのに、あんたの『腹減った』で台無しよ!反省汁!」
「え、えぇ?わ、悪かったよ…」
部屋の中央にいたモートンはマックスに語りかけた。
「マックス、大丈夫なのか?」
「あ?あ、あぁ…なんとか…な。」
結局、用具室にいても何も意味がない、という事で、酒倉庫へ戻ったのだが…
「うわぁっぁぁぁぁ!」
先頭に立ったフランクが悲鳴を上げた。酒倉庫にもゾンビが侵入していたのだ!
「し、死にたくねえ!!」
フランクはゾンビに組み付かれてしまった!今にも噛み付かれそうだ!

バンッ!

一発の銃声でフランクに組み付いていたゾンビが倒れた。
「ひっ!」
ゾンビは1体だけだったようだ。
ギルバートは手をフランクに差し出した。
「気をつけろよ、フサ毛。」
フランクは手を借りて立ち上がりながらこういった。
「フサ毛言うな。」
すると、酒倉庫と3F通路を結ぶ扉がドンドンと叩かれた。
「畜生、フランク、手を貸せ!」
「OK!」
「ダイアナ!みんなを引き連れて突破口を探してくれ!」
「ワ、ワカッタワ!ナントカスル!」
徐々に、扉を叩く力が強くなっている…
酒倉庫の奥へといったシーナ達は困っていた。
シャッターの鍵が掛かっていたのだ。
「た、頼む!早くしてくれ!」
フランクだ。扉を叩く音が徐々に大きく、強くなっていった。
「アラ?ココヲノボレバ・・・」
ダイアナが酒を貯蔵する棚にはしごがあるのを見つけた。
「だが、マックスはどうすれば?」
「モートンさんたちはシャッターを開けてください。マックスさんは僕が見てます。」
マークはドンッと胸を叩いた。
酒倉庫のはしごを上り、ダクトから通路へと急ぐ一同。
しばらくして、前にあったシャッターが開いた。
「さあ!早くこっちに!」
「うわぁぁぁぁ、もう限界だぁぁぁ!!」
蝶番が外れて板切れと化した扉を必死に押さえるも、ゾンビの力には抵抗できなかった。
「クソ!逃げ道は見つかったのか?!」
ギルバートは焦り気味に聞くた。
「大丈夫です!シャッターが開きました!さあ早くこっちに!」
ゾンビがなだれ込んできた。凄い数だ。早く逃げなければ…
「うわあああ!きたぁぁぁぁ!!」
フランクは腰を抜かしそうだったがギルバートが手を貸し、半ば引き摺りつつ
シャッターまで連れて行った。


シャッターを閉めて鍵を掛けたギルバートだったが、シャッターはやつらによって叩かれていた。
「どうすればいいものか…」
マークは頭を抱えた。どうすれば…
するとタークがポケットから何かを取り出した。
「……ふむ」
「やはり。屋上から隣のアパートへ逃げ込もう。そして通りに出るんだ。」
シーナは疑問に思った。何故店員しか知らない事情を知っているのかと。
しかし、その疑問はすぐに解決された。タークが持っていた本、それは
『ニックの日記帳』だったからだ。
なお、タークのみ知る事だが次のページには『シーナの笑顔は最高だ!』と書かれていた。
マックスの容態は悪化していった。もうブルーハーブも無い。グリーンハーブも底を尽きてしまった。
屋上に出た。カラスが飛んできてナンシーの頭をつついた!
「っ!助けなさいよ!!」
マークが包丁で追い払うと、もう一匹のカラスがマークめがけて飛んできた!
「う!やめないか!」
モートンはすかさずベレッタを構えて引き金を引いた。
カラスは1匹、落ちていった。
タークはシーナから火炎スプレーを引っ手繰るとナンシーの周りを飛んでいるカラスに向けて発射した。
高温のガスはカラスめがけて噴出され、カラスはほど良く焼けた。
「大丈夫か?」
「ええ、何とかね。礼を言うわ。」
マックスは突然座り込んだ。そこへ気づいたモートンが駆けつけていった。
「おい、マックス。大丈夫か?」
「もぅ…駄目だ…お前の銃を…貸してくれ・・・・」
モートンは一喝した。
「何言ってんだ!銃なんか何に使うつもりだ!」
「自分のことは…自分が一番…知ってる…」
「体を…蝕まれそうなんだ…せめて、AAとして…死にたい…」
モートンは迷った。どうすりゃいいんだ。この容態なら…
気づくとマックスは自分の銃をこめかみに当てていた。


乾いた銃声が響いた後、マックス・ボウマンはゆっくりと崩れ落ちた。
「・・・・マックス?…マックス!!!!」
「…畜生!畜生!!」
嘆くモートンにギルバートが何か言おうとしたその時、扉がギィ…と開き、
大量のゾンビが屋上までなだれ込んできたのだ!
「モートン!行くぞ!」
モートンを引っ張り、ギルバートは一同の所へ行った。
しかし、フェンスで遮られた通路は全く通りようが無かった。
「クソ・・・」
「シーナちゃん、あそこの部屋は何なの?」
「倉庫です、ナンシーさん。」
ナンシーは倉庫に急いで駆け寄って扉を開けようとした。
しかし、鍵が掛かっていて開かなかった。
「ど、どーすりゃいいんだ!」
フランクはそばに落ちていた鉄パイプを拾った。ないよりはましだ。
「よし、俺、マークとフランクはゾンビを食い止める。ターク!その間に突破口を!」
「分った」
「な、何で俺まで?!」
「あんたは黙ってなさい!」
銃声と、ゾンビたちの声・・・
ギルバートの45オートが火を噴き、たちまちゾンビが倒れる。
マークは屋上にあるものでバリゲードを必死で作っていた。
一方、フランクはおろおろするばかりだった。


「この鍵は使えるかもな…」
タークはロッカールームで拾った黄色いタグの鍵を倉庫の扉に差し込んだ。
「ヤッタ!ヒライタ!」
黄色いタグの鍵は倉庫の鍵だったのだ。
「あんた、なかなかやるわね。」
「早く中にはいりましょう!」
ナンシーは倉庫にあった弾薬を沢山かき集めていた。
「何でこんなにあるのかしら?」
シーナはこう答えた
「オーナーの趣味なんです。実弾を集めるのが趣味で…」
「変わったオーナーね。」
シーナはかれていないハーブを探し、ハーブケースに入れた。
日が当たらなかったためか10個ほどあったハーブも使えるのは1〜2個だった。
ダイアナは変な鍵を見つけた。
「ナンノカギカシラ・・・シーナサン、コレ、ナンノカギ?」
「あぁ、それは悪戯防止用のフェンスの…!それよ!」
「モートンさん、タークさん!フェンスの鍵がありました!」
「そうか!よくやった!」
モートンは素早く周りを確認し、扉を開けてゾンビを食い止めているマークたちのところへ向かった。
「鍵だ!鍵があった!早くいこう!」
するとギルバートはイラ立ちを隠せない様子で言った。
「フランク!お前何もしてないだろ!」
「う、うるせー!さっさとフェンスのところへ行こうぜ!もう限界だ!」
4人がバリゲードを離れて数秒後にバリゲードが突破されてしまった。
しかし、既に彼らはフェンスに再び鍵を掛けて逃げていった。
「待て!」
モートンだ。何があったのだろうか?
「聞える・・・・・・」
ギルバートは、重ねて言った。
「フンサーだ!」


M's BAR前通りではフンサーと呼ばれたフーン族の警察官が拡声器を使って避難勧告を行っていた。
「住人の皆さん!聞いてください!この区間は暴動のためあと数分で閉鎖されます!
まだ建物、住居内に残っている人は今最寄の警察官に保護してもらってください!
時間に間に合わない場合…安全は保障できませんん!お願いします!早く出て着てください!」
フーン族の警察は避難勧告を終えて、振り返り顔を真っ青にした。
「ギャアアアアァァァァァァ!!!!」


「急ごうぜ!封鎖されちまうよ!」
タークが隣のアパートに飛び移った。次々に仲間たちが隣のアパートへ飛び移っていったが、
フランクだけはおじおじしていた。
「ああ、こ、こえぇぇ・・・」
「フランク!急げ!」
フランクは飛び移ろうとした。しかし、飛距離が十分に足りなかったようだった。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
何とか縁に手をかけるフランクだったが、フランクは既に限界に近かった。
「た、高い!た、助けて!!」
タークが手を貸し、命からがら屋上までたどり着けた。あのまま落ちたら死んでいただろう。
「クソ!何で俺ばっかり貧乏くじを!」
フランクはアパートのドラム缶を蹴り飛ばした!
しかし、ドラム缶は重くて動かず、代わりにフランクが足を挫いただけだった。
「っ・・・」
アパートに人はいなかった。ゾンビも。
エレベーターで降りようとしていたが、何を感じ取ったかタークは階段で行くんだ、と命令した。
言われるがままに階段を下っていくとエレベーター周辺にゾンビが群がっていた。
「やはりな、手を貸してくれ!」
数体のゾンビはすぐに片ついた。しかし、あのままエレベーターで降りていたら食い殺されていただろう。
一同はアパートの外に出た。オニギリ族の警察官がショットガンを持ってゾンビ達をなぎ倒しているところだった。
「ニギリン!無事だったか!」
ギルバートからニギリンと呼ばれた警官はビクッと振り返り、静かにこういった。
「脅かすな、ギルバート。」


「よく無事だったな、町中がまるで戦場だ。」
ニギリンは手馴れた手つきでショットガンにシェルを詰め込んでリロードをすると
再びゾンビたちの群れに近づき、ショットガンを連発した。
ギルバートとはやや控えめにニギリンに質問した。
「フンサーは・・・?」
ニギリンはゾンビ達が群がっている場所を顎でしゃくった。
「来たときは遅かった。」
ニギリンは相変わらずショットガンを連発していた。
「ちっ、きりがねぇ…」
ニギリンは一同にいった。
「パトカーを押してバリゲードでも作ってくれ!俺が食い止める!頼むぞ!」
パトカーは3台あったがサイドブレーキが掛かっていないためか二人がかりで押す事が出来た。
しかし、『さぁ、残り1台だ』というところであろうことかモートンがゾンビにつかみかかられたのである!
「ちぃ!HA☆NA☆SE!」
ニギリンがそれを察知すると駆け寄り、ゾンビの頭にショットガンを突きつけて言った。
「避けてみな」
1発の銃声が響いた後、頭部を殆ど失った生ける屍が地面に倒れ、動かなくなった。
ダイアナはちょうどその時、ショーウィンドウのほうから悲鳴を聞きいて
ギルバートの後ろで縮こまっていた。
「ん?どうしたダイアナ?」
ギルバートが相変わらず能天気な口調で聞くとダイアナはこういった。
「イタ、ナニカ・・・イキテルAAガ、コロサレ・・・・チャッタミタイナノ・・・」
ギルバートは何もいえなかった。
「早く来い!こっちだ!」
ニギリンが扉を開けたのだろう、ニギリンは手招きをした。
「おう!今いく!」


アパートの裏路地へ行った一同だったが、そこでまた困りごとが起きた。
お約束の『残り一つの脱出経路に鍵が掛かっている』だ。
「どうしてくれんの?!」
フランクはイライラして言った。誰に言っているかが分らない…
すると、フランクはニギリンの肩をつかんで言った。
「アンタだよ!!」
「す、すまん…ここは俺が銃で破壊する。もう少しの辛抱だから…」
ニギリンはすまなそうにして扉に銃を撃ち込もうとした。
何気なく後ろを振り返ったモートンだったが、顔から血の気が引くのを感じた。
きっと建物などでは、換気用の狭いダクトというのだろう。だが、これはなんていえばいいのか分らない。
あえて言えば、屋外用のダクト、というものだろうか?モートンにそんな知識は無かったが、
とにかく、その狭い隙間から巨大なハサミムシのようなものが沸いていたのだ!
「後ろだ!」
モートンの声に全員が振り向き、そしてニギリンは扉へ連発し続け、
ギルバートは45オートの弾薬を確認し、タークは相変わらず無表情にナイフを構え、
マークは包丁を左手から右手に持ち替えた。
シーナは火炎スプレーの使い方を頭の中でおさらいし、ナンシーはスタンガンを
バチバチと鳴らし、ダイアナはデッキブラシを握る手に力を込めた。
フランクは、隅で丸くなっていた。


「いくぞ!」
ギルバートは叫ぶとダクトのようなところから出てきたハサミムシに一発弾丸をぶち込んだ。
みなが、(フランク以外)できるだけの事をしてハサミムシから抵抗していた。
しかし、相手は数で押してくる。
・・・弾薬も、底を突き掛けている…
「おいアンタ!まだなのかい!」
今まで隅で怯えていたフランクがニギリンに向けて言った。
「わーってる!もう少しだ!」
ダイアナは組み付かれ、腹部を多少だが噛み付かれてしまった。
しかし、デッキブラシを一心不乱に振り回すうちにハサミムシは側面の壁にたたきつけられた。
どうやら、巨大化しただけで体重はあまり変わっていないようだったのだ。
すかさず、タークが硬い鎧のような皮膚のつなぎ目にナイフを入れていった。
さすがのハサミムシも成す術が無かったようだった。
「開いた!こっちだ!」
再び、ニギリンの声。どうやら扉は破れたらしい。


「くそっ!きりが無い!」
ニギリンは銃を撃ちまくっていった。しかし、サソリの様な物にやや押され気味だ。
ショットガンは威力こそ高いもの装弾数の少なさは致命傷だった。
「畜生!早く行け!」
ニギリンは後ろにいる生存者たちに声をかけたが、そこで固まった。
彼の視界にはタンクローリーが見えた。これで奴らを焼き殺せば…
途端、ハサミムシが飛びつき、ニギリンは押し倒された!
「ぬぅ!!」
彼はショットガンを構えようとしたが銃の薬莢排出部分に尻尾を引っ掛け、
そのまま沸いてくる仲間たちのところへ放り投げてしまった。
「くそっ!」
一同は何とか助けようとした。ギルバートは45オートを撃とうとしたし、モートンは
持ち前の怪力で引き剥がそうとも思った。
自分の出来る事をやろうとするものの、ハサミムシは連携が取れているらしく、
ニギリンがいる場所はたちまちハサミムシで囲まれてしまった。
「ニギリン!」
ギルバートは叫んだ。するとニギリンはちらっとこちらを見てウィンクをすると
ライターをニギリンに向かい投げた。
しかし、ハサミムシがジャンプしてそれを阻止しようとした。
次の瞬間、ハサミムシは多少なりとも驚いたに違いない。ギルバートは跳躍し、
ハサミムシの頭めがけてかかと落としをかましたのだ。その瞬間、ハサミムシの視界は暗転した。
なんとかライターをキャッチしたギルバートはニギリンを見た。
「あの…あれだ!タンクローリーの油をここにぶちまけ!」
あっという間にうつぶせになったニギリンに上に組み付いていたハサミムシが
涎の滴る牙を突きたてた。ニギリンは「うっ」と呻いた。それでも、続けた。
「そのライターで奴らを焼き殺せ!頼む!早く!」
ハサミムシたちはたちまちニギリンの体に牙を突き立てていった。
今度こそニギリンは悲鳴を上げ、動かなくなった。

「ギルバート!」
モートンが叫んでふと見ると、既にギルバートはショックを隠せない様子だった。
ギルバートめがけてハサミムシが飛び掛ってきたが、モートンがギルバートを突き飛ばし
そのおかげでギルバートは組み付かれなかった。
一方のモートンはというと、突き飛ばした衝撃で転倒し、被害は避けられた。
タンクローリー前ではフランクがぎちぎちに固くなったバルブハンドルを回そうとしているところだった。
「くっそう!開かないよ!!」
ナンシーがフランクを突き飛ばし、バルブハンドルを回し始めた。
さび付いていたが無事バルブハンドルは回り、タンクローリーの中にはいった燃料が
ドボドボとハサミムシの沸いてくる場所に注がれ、瞬く間に燃料の海となった。
ギルバートは全員が退避したのを見てからライターに火をつけた。
「飛び込め!!」
モートンの掛け声で全員が近くを流れる川に飛び込んだ。
ほぼ同時にタンクローリーが大爆発を起こし、ハサミムシは木っ端微塵になった。
「ひ、ひえぇ…」
フランクは腰を抜かし、いまにもおぼれそうになるだけだった。
そこへナンシーが近づいて何とか土管の中へと押し込んだ。
一同は後に続いていった。
最後尾のギルバートは後ろをちょこっと振り返ったが、すぐに土管の中へと入っていった。


中は、暗くてじめじめしておりまるでネズミの寝床のようだった。
「気持ち悪いわ…」
シーナがそう呟いたが誰も聞えないようだった。
下水道にはネズミが走り回っていた。おぞましい光景だ。
「ヒッ!」
ダイアナが悲鳴を上げたがネズミは既に格子の向こう側へといってしまった。
「…?」
タークはネズミが逃げた格子の向こう側に何かを見つけたようだが、気に留めず、
マンホールのはしごを上っていった。



〜彼らがBARにいたときの土管〜

「クソ!どうなってやがる!」
あたりにサブマシンガンのものと思われる薬莢を撒き散らしながらガスマスクをつけた
特殊部隊のような兵士二人組みは巨大なAAとは思えない怪物に向けてサブマシンガンを連発していた。
「撃て撃て撃て!!」
一人の兵士が目を見開くと同時に怪物の背中側にあった目が開いた。
ほぼ同時に兵士の腹には怪物の鋭利な爪が突き刺さっていた。
「フサロ!!」
フサロと呼ばれた兵士に刺さった怪物の爪は防弾チョッキを乱暴に突き破り、
背中側のパッドまで貫通していた。言うまでも無く、即死だった…
「くそ!!」
兵士はさらにマシンガンを連発した。しかし、彼のフサロの二の舞になった。

……
……視界を狭めるガスマスクから見た彼の視界は、土管の小さな明かりを見ていた。
立ち上がろうにも、立ち上がれない。腹部の傷口からむなしく血が出るだけだった。
彼は隣を見た。フサロのものと思われる血痕があったが、肝心のフサロが見当たらない。
ふと見ると、AAの形をした黒い切れのようなものが見えた。
「こ…こちらC班…応答を…」
彼のヘルメットに内蔵された無線機から発する音は、雑音のみ。仲間からの音声はおろか、
上官からの指示命令すら聞えなかった。
次に彼は、ぐるりと首を回した。彼が愛用しているサブマシンガンが見えた。
震える手で彼はその銃に手を伸ばしていった。もう少し、もう少しだ…
途端、何かごく小さなものが足の先に乗っかった感覚があったが、彼は気にもしなかった。
もう少し…
足の先に乗った何かは素早く胸辺りまで来た。そしてゴーグルを覗き込んだ。
「ネ・・・・ネズミ?」
そう、彼の体に乗った張本人は1匹の小さなネズミだったのだ。
いつもの彼なら足で潰すか、マシンガン1発で殺していただろうが、今の彼にはしなかった。いや、出来なかった。
ネズミはさらに上に上り、額へと移動した。そして、上に向けて小さく鳴いた。
ネズミの鳴き声が彼に聞えると同時に、たくさんのネズミたちが集まってきた。
どこに潜んでいたのかも分らなくなるような数だ。彼はネズミを蹴散らそうと足を動かした。
足の先は何故か防護服を脱いだような感覚になっていた。
「!」
ネズミが体に群がり、食べていた。自分の体を、生きたまま、食い、殺そうとしている!!
声にならない悲鳴を上げた彼だった。
しばらくして、サブマシンガンに手が届いたが、既に彼には必要の無いものだった。
彼はAAの形をした黒いぼろきれのようなものとなっていた。


タークたちがマンホールから出た場所はアップルイン前どおりだった。
アップルインは一泊25$程度で、その良心的な価格は人気だった。
「ここは、前に俺が勤めてたな…」
フランクは遠い昔のことを思い出していた。
通りの奥は車が事故を起こしてふさがっていたが、その近くに二名のAAがいた。
ギルバートはそっと尋ねた。
「あんたら…無事だったのか?」
柱に突っ立っている一名のやや黒目のAAはこういった。
「まぁな。おめえさんたちも無事で何よりだ。おい、マルミー、もう少しの辛抱だぞ…」
マルミー、と呼ばれた丸耳のAAはがっくりとうなだれていた。
「助かるのか?」
率直に黒いAAは聞いた。ギルバートが警察の服を着ているからだろうか?
「さぁな、知らん。俺も酒を飲んでいたらこの有様さ。」
フランクは情報を整理し、気づいてはいけないことを気づいてしまった。
ギルバートは、もしかしたら勤務中に飲酒をしていたのでは?と…。
「おい!」
ふと声がして全員が(マルミー以外)声の主、テナー族のAAに視線が集まった。
「ん?君は署の服を着ているようだが…。どうやら私の思い違いだった。すまない。」
テナー族のAAは説明した。救助車両が待っている、落ち着いて行動してくれ、と…
タークはそんなこと守ってきた、と内心そう思った。
5分経過したものの、人数は一行に変わらず、今までの八人+二人のたった10名であった。
「これだけか?…しかたないな。乗ってくれ」


十名は救助車両に乗り込んだ。
「幹線道路は危険だ。大通りもあちこちふさがってやがる。」
テナー族のAAは右へ左へハンドルを切りながら言った。
「裏道を通るしかないが…」
突如急ブレーキが掛かった。
「なんてこったい。ここも行き止まりか…」
彼は後ろに振り向くとこういった。
「見ての通りあちこちふさがってる。悪いが、歩いてくれ。」
するとすかさずマルミーが反論した。
「な、なんだと!俺たちに死ねって言っているようなものじゃないか!」
フランクもすかさず一緒に反論した。
「そうだぞ!俺たちはここまで必死に着たのにここで下ろすのかYO!」
ギルバートが2名を嗜めて、なんとか降りられたものの、これからどうするか、などは決まっていなかった。
マルミーら2名はバリゲードが除去されるまで乗車している、といったが
残りの8人はどこか連絡が取れる場所が無いかを探しに行くところだった。


一同は歩道橋へと足を進めた。このドキューソでもかなり人気のある歩道橋で、朝のラッシュ時には
多数のAAがひしめいたりなどする。しかし、今は大通りはゾンビたちに埋め尽くされていた。
「?!」
大通りでは多数のゾンビに抵抗している3人の警官の姿があった。
遠目でよく確認できないが、かろうじでモナー族、ギコ族、モララー族だと分った。

「ギコット、まだ出来ないのか?!」
モララー族の警察官があわただしく聞いた。しかし、ギコットと呼ばれた男のほうは向かずに
バリゲードに押し寄せるゾンビ供に鋼鉄の弾丸を食らわせながらだった。
「分ってる…もう少しだ!」
ギコットはサバイバルナイフのようなもので起爆スイッチの製作に取り掛かっていた。
「は、はやく!こっちこっち!」
モナー族の警察はただ銃を構えるだけで何も出来なかった。それが仇となった。
鈍い音とともにバリゲードが倒れたのだ。多数のゾンビが進入して着てしまった。
「よし!起爆できるぞ!モラリス!」
ギコットは前の状況に気づかず、モラリスと呼ばれた警官に笑顔で振り返った。
「ギコット!!!」
ギコットは前を向いて絶叫した。数十体以上ものゾンビに囲まれてしまったのだ。
ギコットを助け出そうとしたモラリスもあっという間に押し寄せたゾンビに群がられ、たちまち姿は見えなくなってしまった。
「ど、どーすりゃいいモナ!」
モナー族の警察官だけが一人、彼らを助けたりもせず、おどおどしているだけだった。


ダイアナは歩道橋にペタンと座り込んでしまい、そのまま動けなくなってしまった。
「…シーナ、ダイアナを頼む」
タークが言うとシーナは頷き、ハーブケースの中のハーブを全員に分けた。
「死なないで下さい!」
するとフランクが言った。
「俺、お腹痛いんだけどサ…ここで休んでても・・・」
ナンシーのドロップキックが炸裂し、フランクはその場で倒れた。
「わ、悪かったよ、謝るよ…」
一同が歩道橋を降り、大通りに出ると、そこは地獄絵だった。
いたるところにゾンビが歩き回っていた。もはやバリゲードはその役目をなしていなかった。
モナー族の警官がこちらに気づくとハンドガンをマークに手渡し、一同をすり抜けて
救助車両へと逃げていった。
「なんてやろうだ!見たよな?みんな?あんな奴最低だよ!警官失格だ!」
フランクが言うとナンシーがぼそっといった。
「あんたも逃げようとしたじゃない。」
タークは逃げたモナー族の警官を追いかけ、問いただしていた。
「一体どうすれば爆破できる?」
「し、知らないモナ!」
タークは折りたたみナイフを出し、もう一度ゆっくりといった。
「どうすればいい?」
「わ、わ、わ、わ、分った!言う!言うモナ!だからナイフを…」
タークは折りたたみナイフの刃をしまい、彼の返答を待った。
「あんたも見てたろ?モラリスのところにある起爆スイッチをギコットのところで押すモナ!」
「ふんっ…お前は行かないのか?」
「死にたくないモナ!!」
タークは問いただした後、大通りへと戻り、一同に話した。
「そうか…いったん歩道橋に戻り、作戦を練り直そう。ここでは食われるかもしれない」
フランクが身震いをし、真っ先に歩道橋へ駆けつけた。


「じゃあ、モートンとマークとあんたが配線付近を守るんだな?」
ギルバートはタークに聞いた。タークは静かに頷いた。
「そうだ。フランク、ナンシー、ギルバートには起爆スイッチを拾って着てもらう」
「分ったわ。」
「い、嫌だな…」
簡単だが作戦を練り、彼らは自分の身を守る武器を確認し合って作戦に移った。


「なんて数だ!おいギルバート!まだなのか?!」
モートンは配線付近でゾンビを撃ちながらギルバートに聞いた。
「ねえんだ!スイッチはあるんだが!ハンドルが無い!」
そう、起爆スイッチはあったのだが、起爆ハンドルが無かった。
ゾンビたちが押しかけてきたときに外れてしまったようだった。
「そんな…ここまで来て見つからないなんて…」
ナンシーは放心状態に陥った。すぐそこにゾンビが1体いたのだが…
「キャ!」
ナンシーはゾンビにつかまれてしまった。
「助けて!」
フランクは鉄パイプを握る手に力を込めた。
「た、頼む!ナンシーに当たらないでくれ!」
ガシッ!
鈍い音とともにゾンビが仰向けに倒れた。
「ナ、ナンシー!大丈夫かい?!」
フランクはあわてて聞くとナンシーは言った。
「おかげさまで。あんたもやるじゃないの。」
バチッ!!
スタンガンが炸裂し、フランクにつかみかかろうとしたゾンビが倒れた。
「これで借りは返したわ。」
ギルバートは必死に警官の死体を調べていた。
「警察手帳…畜生!起爆ハンドルが見当たらない!」
後ろにゾンビが迫っていたが回し蹴りでゾンビが横に吹っ飛んだ。
「へっ!百年早いぜ!」
弾薬が、圧倒的に足りない。起爆ハンドルがなければ起爆できないのだ。
タークは頭を働かせた。
「ギルバート!スイッチを貸せ!」
ギルバートが投げたスイッチは放射状に飛んでタークの手元へ落ちた。
「モートン、援護しててくれ…」
タークはナイフはビニールテープでいつでもハンドルを回せる状態にした。
「うぉ!!」
突如、ゾンビに組み付かれたタークは地面に倒れた。
「クソが!離せ畜生!」
タークは折りたたみのナイフを組み付いたゾンビの頭へと突き刺した。
低いうめき声を上げたゾンビはそのまま動かなくなった。


線をスイッチへと繋いで、一同は急いで歩道橋へと向かった。
タークが持ってきたスイッチを捻ると、大通りは大爆発を起こした。
忌々しい大勢のゾンビたちが吹っ飛び、爆風で地面に突っ伏し、隣のビルや家に叩き付けられた。
それでも前のほうのゾンビは進行を止めなかった。しかし、ものすごい速さで爆風はやってきて
それも飲み込んでしまった。
無論、ギコットやモラリスの死体も。
もう二度とゾンビたちは立ち上がらなかった。
悪夢はこの手で消した。そう思うと一同の心は喜びでいっぱいになった。
「やったぜ!ついにやったぞ!」
「私たち…勝ったんだわ!!」
「ヨカッタ・・・モウアンゼンナノネ・・・」
思い思いの喜びの言葉を発して一同は救助車両に乗った。
テナー族の警官は救助車両を動かし、ゾンビがいなくなった大通りを走りぬけ、瞬く間にドキューソシティを超えた。


軍が閉鎖した街への入り口だったが、出てきた救助車両を見て兵士たちは大いに喜んだ。
一人の兵士が車を降りるように指示して、下りてきたAAにこういった。
「ここにここを通ったというサインをお願いします」
「勿論、サインぐらいいくらでもしてやるぜ。」
数十分後、再び救助車両は走り出そうとした。
しかし、少しも走らぬ間に車両は止まってしまった。ガス欠である。
「なんてこった…」
すると兵士がにっこり笑っていった。
「今から政府のヘリの出動を要請します。安心してください」
数十分後に政府のヘリコプターが来て彼らを回収していった。


ヘリの中で、ギルバートは呟いた。
「悪夢は…終わったんだな…」
フランクはギルバートに向けてこういった。
「しかしさ、こんだけ悪い事が起きたんだしさ、今後どれだけいやな事があっても
今までのことを考えれば楽なもんだよね。」
モートンはこういった。
「このまま…終わって欲しいな…」
するとダイアナはこういった。
「マダ、ワカラナイコトガアルノ・・・ワカラナイコトダラケヨ・・・デモ、ガンバラナクチャ・・・」
ナンシーは自分のしたいことを言った。
「ああ、こんなに汗をかいたんだから、シャワーでも浴びたいわ」
すると皆がめいめいに自分のしたいことを言った。
「私もシャワーが浴びたいです。」
「ワタシモ・・・」
「道具入れの中にナイフを補充しておきたいな。」
「うまいものが食いたいね。とびっきり、上等な奴!…にしても腹減ったな…」
「私は些細な事でいいから幸せをつかみたいな…」
「俺は…そうだな…、これ以上、こんな目にあいたくないぜ。」
「このまま、悪夢が終わって欲しいよ…」
皆がめいめいに言った後、しばらく沈黙が続いた。
「おい、太陽が昇るぞ!」
ヘリコプターの窓から見ると、太陽が顔を覗かせていた。
「このまま、悪夢が浄化されればな…」
マークが言った。するとそれに答えるようにヘリのパイロットは言った。
「ああ…そうなって欲しいものだ…」
ヘリコプターは太陽を背に受けながら、ドキューソシティを超えて、山を越えていった。




兵士は、生存者の名簿リストを見て、呟いた。
「やれやれ…どこから来たか分らない人だが、幸運なものだ」
もう一人の兵士が、まじまじと書類を見た。

"ドキューソシティ事件、7.28に脱出した者達。
"ギルバート・ブロックマン"
"モートン・ウェリトン"
"シーナ・パーカー"
"マーク・ヤング"
"ナンシー・ヴァンガード"
"フランク・バークリング"
"ダイアナ・ベルズワース"
"ターク・スカイヤーズ"
"マルミー・ジェミング"
"フーンズ・レイマン"
"テナーン・ゴードン"
"モナオット・ウィンストン"
「書類なんか見ている暇は無いぞ!さっさと持ち場につかないか!」
その書類を取り上げた上官らしき人物は兵士に一喝した。
「イエッサー!」



これはまだ発生直後に脱出できた、幸運な人物たちの物語である。
ドキューソの人口はこれだけではない。
勿論、まだ生存者たちが町にいるのは確かだし、彼ら全員が脱出できたというわけではない。
ドキューソシティの事件を語り終えるには、まだ早い。
ドキューソシティ事件の物語を語り終える力は、私たちにはまだ無いのかもしれない。
しかし、忘れてはならない。この事件が本当だった事を…

これで、ギコットたちの物語は終わりである。あくまで、『ギコットたちの』物語が
終わっただけである。まだ、無数のAA達が、ドキューソに取り残されているのだから…

長編AA板BIOMONARDで連載されていた
ぞにけん氏の作品を小説版にアレンジしてみました。

楽しんでいただけたでしょうか?
とりあえず、終わってみました。
しかし、ただ単にこれは事件の一握りに過ぎませんし、幸運にも市民全員が発生直後に脱出できたわけでもないです
これで全てを語り終えた、というのはまだ早すぎるのです。

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