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光の先へ―First Stage―

第一話 

すがすがしい夏の朝の道をギコが自転車でぶっ飛ばしていた。

「オラオラオラァ!!」

コンビニの角をまがり、真っ赤なポストを通り越し、車の大河をすり抜け、急な坂道を気合と根性でのぼり、急な下り道を自転車のチェーンがはちきれそうなほど
こぎまわしていた。

下り坂が終わるとすぐの角を曲がるとあとは中学校まで一直線なのだが、角をおもいっきりふんばって曲がると白と黒のコントラストに赤い飾りつきという車の大群に出くわした。

「え、ちょ、冗談だろ、おい!」

ブレーキが火花をちらすほどの回転力のある車輪は、まったく止まってくれなかった。それどころか、ますます勢いをつけてはしって行く。ギコはたまらず目を閉じ、ハンドルを左に傾け自転車を操作した。

≪キキキキキキキキキキ≫

耳を塞ぎたくなるようなけたたましい車輪の悲鳴直後に《《ドーン》》という地をゆるがすような音が聞こえた。この音に付近の住民がおもわず顔を窓から出したほどだ。そして、ギコが腰をおさえながらゆっくりとおきあがった。

「いってぇ・・・」

ギコが見たそこにはみごとに原型をとどめないほどに壊れた自転車と無傷の白と黒n(ryがあった。どうやらパトカーにはぶつからなかったようだ。
しかし、チャリの前を見るとしろい傷がいくつもある電柱があった。
ギコはなんとか自転車を方向転換させ、パトカー激突という大惨事をまぬがれたのだった。(不運なチャリは別として)
この衝撃音に気づいた青い服の軍団がやってきた。人数は10人ほどだ。なぜこんなにいるのかとビビったギコだが、覚悟して警察官を見た。

「大丈夫かい?スピードの出しすぎは事故の元だよ」

予想外の言葉に驚くも呆れたギコが、視線を下に落とした。それを不審に思った警察官がギコの顔を覗き込む。すると、ギコが小声で答えた。

「もう事故りました・・・」

ギコにかるくツッコまれた警察官は面食らった顔をしたが、その事に気がつかないギコはゆっくりと体についた砂を払いながらゆっくりと立ちあがった。

「ところで、何があったんですか?」

と聞くと警察の後ろから学校でよく聞く声が姿も見せずに答えた。

「十数秒前、スピードオーバーと自転車の手入れ不足による自転車自爆事故がありました。加害者はGさんで被害者は悲惨な自転車と不運な電信柱です」


急に現れた謎の人物とは、一体誰なのか!?次回、『店で出されたスープにハエが入っていた』こうご期待!!



「「ふざけてんのか、このナレーター!!」」



あら、聞こえちゃった?



「聞こえたからツッコんでんだろ!」 「つーか意味わかんね−よ!!」



おまえらがどっちがどっちなのかもわかんね−よ!!




「今はそれどころじゃなーい!!」   「さっさと前言撤回して詫び入れろ!」




え〜、このできそこない小説をわざわざ見てくださっているギャラリーの皆様、このたびは遅刻バカのギコと謎のボケ同級生がお笑い系小説でよくつかうナレーターツッコミをしてしまい、まことに申し訳ありませんでした。後で厳重に厳しく罰を与えておきます。皆様にはおまけを用意するので、なにとぞ、お許し下さい。




「「ふざけんなあ!!」」



何が?ちゃんと謝ったでしょ?




「「ツッコミどころが多すぎるんだよ!!てめえのナレーションは!!」」



あら、お二人とも、息がぴったりなことで。



「調子狂うな、コイツ」   「もうどうでもよくなってきた・・・」




ってことで、この勝負、私の勝ちってことで。そうそう、皆様に約束した通り、オマエラには罰としておまけに出てもらうからね。



「「ハア!?ふざけんじゃねーよ!!」」



問答無用!!さっさと移動しろ!!



「「ゼーッタイやだ!!!!!」」




+激しく問答無用+



「「うわああああああ!!!!」」


     まったく進まず第一話終了





+激しくオマケ+
(ナレーター)え〜、それではバカギコとボケ同級生によるオマケです。本編とはまったく関係ないのでスルーしちゃってくださっても結構です。でわど〜ぞ〜!!


オマケ『店で出されたスープにハエが入っていた』(ナ)うはwwテラヤバスww


(ナ)とあるゴミ捨て場のトナリに立っている小さなレストランに、一人の少年が入っていった。

(ギ)「うわ〜、腹減った〜、なんかクイテ〜けど金ね〜し〜、食い逃げでもすっかな〜」(棒読み)

(ナ)少年はそうつぶやきながら出口に一番近い席へ座った。

(同)「いらっしゃいませ〜ご注文がお決まりになりましたら〜、呼んでくださ〜い」(棒読み)

(ナ)そう言いながら冷た〜いふきんを無造作になげ捨てて行くウエイターを横目に、少年は「メニュー」とかかれた本にくいついていた。

(ギ)(何にすっかな〜、ど〜せ〜、食い逃げするんだし〜、めちゃくちゃ高いやつ頼んでやろ〜っと)(棒読み)
 
(ナ)などと目論でいるうちに頼んでもないスープが運ばれてきた。

(同)「どうぞ〜、本店自慢のコンソメスープトウモロコシ入り地中海風で〜す」(棒読み)

(ナ)その手には上からわしづかみにされたカップが透明な液体で床を光らせていた。

(ギ)「え、あの、まだ注文してないんですけど〜」(棒読み)

(同)「いや〜ウチの店では〜、お客を待つのがニガテなんですよ〜」(棒読み)

(ギ)(おいおい〜どうなってんだよ〜)(棒読み)

(同)「まあ〜兎に角〜飲んでください〜そんでもってとっとと帰って下さい〜」
(棒読み)

(ギ)「はいはい〜」(棒読み)

(ナ)だらしないウエイターが去った後ギコはスープを見た。そこには、ハエが入っていた。  ちゃんちゃん!!


「「終わりかよ!!」」(本気)

  オチもなく終了





第ニ話

青い制服軍団の奥から出てきたのは、ギコと同じ2年四組の同級生モララーだった。この二人は保育園、小学校、中学校とすべて一緒の幼馴染。いまこそ勉強に追われてなかなか遊ぶ機会がないものの、中学校に上がる前までは日が沈むまで遊んだ仲だ。部活も同じでサッカー部。二人ともレギュラーだ。

ゆっくりとモララーは姿を現し、ギコの前でニヤニヤしながら止まった。ギコは教室にいると思っていたモララーが目の前にいるので、少々驚いて目を見開く。

「それにしてもまあ、派手にやったねぇギコ。いつもはミスらないのに」

モララーの視線の先にはみごとにぶっ壊れた自転車があった。あいかわらずニヤニヤしているモララーにギコは苦笑しながら答える。

「まあ、な・・・また寝坊しちまってよお」

頭をかきながら言うギコを、またか、という顔をしてモララーは見る。
ギコはまた苦笑すると、モララーに聞く。

「それにしても、何があったんだ?」

もうすでにバラバラに散って行っている警察と校門にはられた黄色く細いテープを見る。この学校は問題児が多いのでパトカーがくるのも珍しくないが、これほど大事になったことは今までで一度もない。どうせだれかがナイフでも振り回したんだろうとギコは思っていたが、モララーから思いがけない答えが帰ってきた。

「消えたんだよ。俺達以外の全校生徒と先公が」

そして、空白の5秒が訪れた。ギコはそのあいだ全くうごかず、周りの時間も止まっているかのように思えてならなかった。木の葉がひらひらと時間をかけて舞い落ちる。道行く人や野次馬の声などもギコには遠く聞こえた。
五秒後、正気に戻ったギコが

「ハァ?どういうことだよ!?」

大声で叫ぶと近くにいた警察の一人が話し掛けてきた。

「どうやらモララー君が家へ忘れ物をとりに戻って学校へ来たら誰もいなかった、と言う事だそうだ」

簡潔だが、モララーが詳しく教えてくれた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

朝8:10

日本晴れの日差しが肌に突き刺さるほど鋭い朝、モララーは家を出た。
いつもの通学路を通り、途中にある空き地の大きな石に腰を下ろした。
夏の日差しを受けて成長しまくった何本もの草は、手入れもされずに伸び放題で伸びまくっていた。その青々しいまでの緑は、太陽の光で透けてこの世のものとは思えないほど鮮やかに輝いていた。
そんな光景を目を細めながらモララーは待ち人として眺めていた。


8:15

少しすると、遠くから駆けて来る二人のAAが真っ黒い聡明な目に映った。
ひとりは真っ白い体にほそいたれ目がチャームポイントで、ちょっと太めのモナー。語尾に「モナ」がつくのが口癖だ。
もう一人、日差しに照らされ、眩しく輝く宝石のような淡い桃色のAAはしぃ。ほっぺに赤いアスタリスクが特徴で、とても美しく、男子によくモテる。だが当の本人はギコに気があるらしく、いつもちらちらと見ている。(鈍感なギコは気づいていないが)
この三人+ギコは大の仲良しで、いつも一緒にいる。(ギコは自転車通学)

そのふたりに気づいたモララーはすくっと立ちあがり、手を大きく振った。


8:20

三人が学校へ到着すると、木製でちょっとにおう靴箱に向かった。俗に言う昇降口だが、そこも大勢の生徒達で溢れていた。
三人はまず靴を上履きに履き替え、一階の廊下を進む。一番突き当たりの階段を上るとすぐの「2−4」が教室だ。
まず各自の机へ行き、荷物を整理する。その時モララーが「進路希望調査表」を忘れたのに気づき、二人に話す。
無関心のモナーとは逆に真剣に考えてくれたしぃが「取りにいったら?」と言ったのでモララーがすごい勢いで教室を飛び出し、昇降口へ向かった。そのときふと時計をみたら「7:27」と示していた。


7:32

ダッシュで家についたモララーが大急ぎで調査表を探し、やっとの思いでリビングにある古いサイドボードの裏からみつけた時の時刻は7:38で、もうすぐ朝のホームルームが終わろうとしていた頃だった。


7:44

モララーが学校に戻ってきたとき、すでに朝のホームルームは終わり、個々が一限目の準備をはじめている時間だった。
だがモララーが校門をくぐっても声や物音すら一つも聞こえない。
不審に思ったモララーだが、それよりも遅れたという焦りのほうが大きく、急いで昇降口へ向かった。
上履きに履き替え、廊下をダッシュで走り、階段へ向かう途中、モララーは思わず足を止めた。一年生のクラスがもぬけのからだったのだ。すべての一年生のクラスを見ても誰もいないので、嫌な予感がして階段を勢いよく2段抜かしで駆け上がり、二階を目指した。
だが、そこで見たのは、一年生と同じ、もぬけのからの教室だった。
3階に駆け上がり三年生のどの教室を覗いても、やはり誰もいない。職員室へ大慌てで向かう途中のどの教室にも、誰もいなかった。
ようやく職員室へたどり着いたが、やっぱり誰もいなかった。そこでモララーはすぐそばにあった先生用の電話で110番通報をしたそうだ。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「と、いうことだ。誰もいない校舎に俺の足音だけが響いていて、それはそれはむなしかったよ」

と、つらそうな顔をしながらモララーは俯いた。
モララーの話をじっと聞いていたギコだが、その目は「信じられない」といっているような曇った目をしていた。だがその時また警察官が話し出した。

「それでモララー君に話を聞いていたんだ。あ、校舎にははいらないでね。ちゃんと調べてないから」

モララーの話を聞いていたのかいなかったのか、どちらにしろ空気を呼んでいないような明るい声でそう言う警官に、ギコは一言「はい・・・」とだけ答えた。

ギコが呆然とモララーを見つめていると、急にモララーが顔を上げた。

「なあ、ギコ」

「うん?」

突然声を掛けられたギコは驚いて変に裏返った声で返事をしてしまった。そんなギコを口元で微笑をたたえながらモララーが言う。

「ちょっとコッチきて」

そう言うとモララーはいきなりギコの手を握り、ひっぱった。
これにまたもや驚き、ギコはすこし足元をつまづく。

「え、おい!」

「いいから、早く!」

戸惑うギコをよそにモララーは走り出した。

    第二話(+α)終了






第三話

モララーがギコをつれてきたのは、人気が全くなく、日陰で植物もほとんどない寂しい雰囲気が漂う体育館裏だった。こけが生えているしめった地面の上で、モララーはたちどまる。だが、その顔はまっすぐ前を見つめていた。
遠くから聞こえる人々の声も、この静寂にかき消されてしまっていた。

「ハア、ハア・・・なんなんだよ、いきなり」

ギコが息を切らしながらモララーを見る。運動部といえどいきなりの長距離ダッシュはこたえたようだ。両手を両膝において前かがみになり、態勢を保っている。
ギコがゆっくりと背中を伸ばし、モララーの背中を見ながら返答を待つ。
するとモララーがまじめな顔をして振り返った。
それにはギコも「ふざけられない」と直感で感じた。

「ギコ、あそこを見てみろ」

モララーが人差し指をさらに奥の方へ向ける。影になっていてすぐには分からなかったが、どうやら誰かがこちらに近づいてきているようだ。体育館が太陽の光をさえぎり、そのAAを隠していた。
そして、徐々に輪郭がはっきりとしてくる。

「え?誰だ、アレ?」

さらにAAが近づいてくると、その姿が明らかになった。
モナーと同じ位の身長。おおきな漆黒の聡明な瞳は、モララーがもうひとりいるようだ。ただ違う所は、両耳にそれぞれ一本の赤い横線が入っている。そして、体の色は暗く深い、未知の海底を思わせるような濃い紫をしていた。
驚いているギコをよそに、モララーは「彼」を紹介した。

「俺の裏人格、分身のウララーだ」

そうモララーが紹介すると、ウララーが近づいてきた。さらに近くで見ると、モララーと身間違えてしまいそうなほどそっくりなのが分かった。
ただ、二人がかもしだすまわりの雰囲気は異なっていた。
モララーは近くの人をマターリさせるような、そんなやさしいオーラに対し、ウララーはまるで近くにいる者を殺してしまうような、そんな威圧感のあるAAだった。
ウララーはギコの目の前にくると、

「よろしくな、ギコ」

と一言、挨拶をした。雰囲気こそおそろしい感じがするが、声は凛々しく、透き通るような美しい声だった。その声がウララーの威圧感を瞬く間に消していってしまった。
ギコはひとまず安心するが、まだ頭の中は混乱中だ。体育が5、その他オール1の頭脳ではモララーの言葉を処理しきれなかったのだ。

「え?えええ????どういうことだ?????????」

?マークを頭上にいっぱい浮かべるギコは、なにがなんだかわからなくなっていた。

「ひとまず落ちつけ、ギコ。こいつはもう一人の俺と考えてくれればいい」

ある程度落ちつきモララーとウララーを交互に見ているギコを見て、ウララーはなぜここにいるかを話しだした。その内容は・・・


この世界はかつて、1人のAAは外面と内面の二人に分かれていた。
しかしじょじょに外面が支配し、内面の者は邪魔者扱いで追いやられていった。
そこで内面たちは集り、ちがう次元にもう一つの世界をつくり、住むようになったらしい。
それから幾年の月日が流れるうちに、その中で、今度は逆に自分たちが支配してやろう、と考えるもの達がでてきた。
彼らはかつては内面、平たく言えば今支配している外面とは正反対の性格。なので、そう考えるのも無理はない。だが中には外面と似ているのもなかにいて、それがウララーのようなものだそうだ。そういうものはこの計画には反対したのだが数が圧倒的で、負けたものはつかまり、あちら側にまわってしまった。
ウララーはそれをきりぬけ、どさくさにまぎれてこの世界にきたそう
だ。
計画をもくろんだやつらはまず足場を得るためギコ達の中学校を襲った。そしてそ
こにいた全員を内面の世界へ連れて行き、外面を追い出し内面の世界に閉じ込め、内面がかわりに入りこの世界に戻ってくる、という計画だそうだ。それを続け、結果的にはすべてのAAの内面と外面が交代する、ということらしい。


「と、いうことだギコ」

長話をようやく終えたウララーがギコに声をかけた。一旦落ちついたギコの頭の中は、再度?で埋め尽くされた。整理はまだ出来ていないが、何とか聞くことが出来た。

「え?じゃあ世界は二つあるってこと?」

目を丸くしながらギコが二人に聞くと、二人は一度顔を見合わせ、そろって

「「そういうこと」」

と言った。さすが二人で一人の二人、息がぴったりだ。これにはギコもビビり、ちょっとあとずさりをした。靴が地面の砂利とこすれ、低い音をたてる。

「え、と、じゃあこの事件の真相知ってるんならなんで大人に言わないの?」

まだとまどっているギコは少し噛んだが、今一番疑問に思っていることをぶつけた。
すると二人は呆れたような、あたりまえだというような複雑な顔をした。ちょっとしてモララーが口を開いた。

「だってこんな話、大人が信じてくれる訳がないだろ」

もっともな事をいわれたギコは、つづけて質問をする。

「まあ、確かにこの科学の時代にそう簡単に信じる大人なんてなあ・・・。でも何で俺には話してくれたんだ?」

するとまた二人は顔を見合わせ、少し笑ったような顔をしながら一斉に振り向き、口を開いた。また一緒におなじ事を言うのかと思ったギコは、態勢を低くし、無意識にかまえていた。

「「おまえは親友だしなにより単純だから」」

誉められているのか否か分からない返答にギコはずっこけ、呆れながら「どんな理由だよそれ!!」とツッコンだ。ようやく落ちついたギコに二人は安心したような顔をする。
そして、ウララーがギコにとって思いがけない、この旅の始まりを意味する言葉をさりげなーく言った。

「ってことで、おまえにも協力してもらうから」

「ふーん・・・・って、え!?」

予想どうり冗談じゃないという顔をしながら、ギコは驚きの言葉を上げた。その声は大きく、寂しいこの体育館裏によく響いている。モララーは向こうにいる人に気づかれないか心配したが、なおもウララーは続ける。

「だってそうだろ?信じてくれたわけだし」

「え、そういうわけじゃ・・・」

とまどっているギコの肩にポン、とモララーが肩をおいた。その目は「問答無用」と言っているようで、ギコは呆然としながらその目を見た。そしてモララーは大声で

「というわけで、決定!!さっそくいこうか!!」

「ええ!?ちょ、まてよ!」

いやがるギコをよそにモララーはギコの手をつかみ、そしてウララーとともに走り出した。もちろん、ギコは引きずられながら。

    第三話 終






第四話

「何回引きずりまわすつもりだよ、オマエラ・・・」

きれいに整頓された勉強机に、資料集がびっしりと並ぶ本棚。青いグラデーションのカーテンによりそとの光がほとんど入ってこず、木で出来た天井の丸い蛍光灯がよりいっそう眩しくみえる。
両親が留守で静まりかえったモララーの部屋でさきほどより息の切れたギコがぜいぜい言いながら二人を見た。

「悪いね、ギコ。どうしても君に協力してもらはなくちゃいけないんだ」

透明なガラスコップにオレンジ色のジュースを注ぎながらモララーは言う。
注ぎ終わった一つのコップをわしづかみにし、ギコは一気に飲み干した。
そして一息つくと

「俺が知った事かよ。他をあたってくれ」

と床を見つめながら言う。
非協力的なギコに対しウララーが口を開いた。

「あのなあ、他って誰をあたるんだよ?友達全員きえたんだぞ?」

今このことに気づいたギコは、顔をあげなるほど、というような顔をする。

「これで分かっただろ?ギコだけしか頼りにできる人いないって」

ようやく納得したように思えるギコだが、ふとあることが浮かんだ。

「でもなんで俺までいかなくちゃいけないんだ?ウララーだっているんだし、別に二人でもいいだろ」

そう言うギコを前に、二人は顔を見合わせた。またか、とギコは思ったのだが、すぐにモララーだけが喋り出した。

「そういや、まだ話してないことがあったな。俺とウララーは二人で一人も同然。どちらかの魂がこの世から消えるともう片方も消える。つまり、魂は二つでも命は二人でひとつしかないってことだ」

微動だにせず聞いているギコは、ふと時計を見た。丸く緑色の縁取りの時計は、9時13分を指している。
ぼんやりとしているギコに、今度はウララーが口を開く。

「つまりどっちかが死ぬと全滅しちまうってことだ。相手だって同じだから殺す事はできない。こっちが手加減してもあっちは本気だ。確率は高い。だから最低でももう一人必要なんだ」

「・・・あと、すごく言いにくいことなんだけど」

モララーが口篭もりながら言った。その顔は言うのが申し訳なさそうな、言ってもいいのか、というような複雑な顔をしている。
ギコはごくりと喉をならした。

「相手の親玉がギコの内面なんだ」
          ・・
そして、空白の十秒がおとずれる。
時計の秒針が自分の存在を知らせる小さな音を鳴らす。
その音だけが広い部屋にむなしく響いていた。

「ふ〜ん。つまり、もう一人の俺が敵ってことか」

声を震わしながら言う。
そうとう驚いたようで、オーバーリアクションもおこらないほどだ。
外見は落ちついてるようだが、内心は相当乱れているであろう。
そんな状態のギコを知ってか、落ちついた声でゆっくりとモララーが話す。

「だからといってもう一人のギコをたおすわけにもいかない」

モララーに続き、ウララーもギコのいまだ焦点の定まらない目を見ながらゆっくりと、しかししっかりと話した。

「俺達他人にはあいつの心は制御できないが、あいつの外面のお前なら出きるかもしれないんだ」

「つまり、俺がもう一人の俺を説得しろってことか・・・?」

二人により少しづついつもの調子に戻るギコ。

「「そういうことだ」」

また空白の時間が訪れる。
二人はギコの答えを、強く光る瞳を見つめながら待った。
だが、今度は先ほどよりも短く、秒針が存在意義を唱えられたのはたったの2回だった。

「無理無理無理!ゼッタイ無理!!んなキケンなことできるか!俺は降りるぜ、お前等だけでやってろ!」

その言葉に驚いたウララーは、目を見開きながら立ちあがった。
「信じられない」といったような怖い表情をしている。

「友達全員つれてかれたんだぞ!?お前のせいで!なのに自分は尻尾巻いて逃げるってか、この臆病モンが!!」

モララーの裏であるウララーはモララーでは考えられないほどの大声でブチ切れた。これにはさすがのギコも驚きを隠せない。口をぽかんと開けたまま固まっている。
冷静なモララーですら目をまん丸にしているほどだ。

「おい、ウララー・・・」

モララーがなだめるが、ウララーは全く聞いていないようでギコだけをにらみつけている。

「ああそうかいそうかい、仲間すら助けようととしないなんてね!もういいよ、お前なんてギコエルごとぶっ殺してやる!!」

その時、ギコが一つの言葉に引っかかった。
「まさか」という顔をしながらたちあがり、ウララーに向き合う。
モララーもつられて立ちあがった。

「おい、今ギコエルっていったか?」

ギコは先ほどのことは全く気にしていないようで、その事についての疑問だけウララーにぶつけた。

「ああ言ったよ、それがもう一人のお前、内面の世界では破壊神と言われ恐れられている、ギコエルだよ!!」

これの事実に驚いたギコはウララーに負けないくらい大声でさけんだ。
秒針は全く音を響かせられないでいた。
だが、かわりに長針が音を鳴らす。(ギコにかき消されたが)

「おい、ギコエルって俺の家に代々まつられている守り神だぞ!?そいつがもう一人の俺だっていうのか!?」

これにはモララーとウララーも仰天した。
二人とも声を荒げて言う。

「「まじかよ?!」」

「マジのマジのオオマジ!!どうなってんだよ!?」

ギコも声を荒げ、叫ぶ。
すると、モララーが何か思いついたようだ。

「まさか・・・」

さらに目を大きく開いたモララーは、ギコへその目を向ける。

「ギコはギコエルの生まれ変わりなんじゃないか?」

落ちついた声のモララーの推理が、あとの二人の心も鎮める。

「そうか、それなら合点がいく。内面は本当の自分といってもいいからな」

内面のことについてよくしるウララーが言う。
だがギコは呆然と二人を見ながら

「まじかよ・・・」

と一言。
予想もしない発覚に途方に暮れる三人であった。

    第四話 終  







第五話


思ってもみなかった事実に、呆然とする三人。ぽかんとあけた三つの口で、いち早く動いたのはウララーの口だった。

「でもさ、ギコが敵の生まれ変わりだとしたら、そいつの力使えるんじゃないのかか?」

だがその声はかすれ、うわずっている。いまにも消え入りそうな声だ。

「そんな事言っても俺何にも出来ないぜ?体力とスピードには自信あったが、さっきは二人に振り回されたし」

ギコはモララーを見ながらやけに落ちついて聞いた。
その声からして、かなり冷静になっているようだ。

「それは俺がウララーの力をわけてもらったから、たぶんその影響だと思うけど」

首をわずかに右へかしげながらギコはその言葉を繰り返す。

「力?」

また?で頭の中がうめ尽くされそうなギコに、ウララーがさらりという。

「といっても俺の力を全部やるわけにはいかないから、ほんの一部だけどな」

「じゃあ俺は無理なんじゃないか?だって敵なんだろ?もう一人の俺は」

ちょっと行き詰まったような顔をするギコの問いに、モララーとウララーはしばらく考えこんでいた。
秒針が7回ほど存在感を示した後、二人は同じに顔をあげ、見合わせた。
そして、その顔をギコに向ける。

「「いや、出来るかもしれない」」

「へ?」

二人同じに思ってもみなかった事をいわれ、ギコは固まった。
そして、今までになかったほどの長文を声を合わせながら言う。

「「お前の家にギコエルがまつられているんだろ?そっからなら出来るかも」」

そう聞くや否や、ギコは「そうか!」と言うと、部屋のちょうつがい式の扉を前へ押し開け、大きな音とともに走り出す。

「おい、ギコ!そんなにあわてなくても・・・」

ギコを追いかけながらモララーは叫ぶ。気がついたらその横にいつのまにかウララーがいた。

「さっきまでの腰抜けとは全然違うな」

苦笑しながら前を走るAAを見る。
その背中は希望で満ち溢れていた。

「そこがアイツらしいんだよ」

二人はかすかな笑みを浮かべながらギコのあとを追いつづけた。



〜ギコ宅・庭〜

ただっぴろい庭には大きな松の木が生い茂り、一面人工芝がしかれていた。中央には石で囲まれた大きめの池に神社を小さくしたような祠がうつっている。
まるで池を守っているかのようにどっしりとかまえている。

「で、あれが祠か」

ウララーが聞くとギコがこくん、とうなずいた。
祠の中央には、流れるように墨で書かれた見たこともない字がかかれたお札がある。
そしてその中央には何やら天使が描かれていた。
それを見ていたモララーがおもむろにウララーに話しかけた。
だが、目は祠を見たままだ。

「なあ、ウララー・・・」

「どうした?モララー」

不思議そうな顔をしながらモララーを見る。すると

「俺、なんかあそこから嫌な気が出ている気がするんだけど・・・」

モララーは小刻みに震えながら言った。

「だろうな。俺も感じる」

ウララーは震えてはいなかったが、その声はおびえているように聞こえる。
だがそれは最初だけで、最後のほうはしっかりとした声だった。

「まじ?俺なんとも感じないんだけど」

ギコがモララーの横から二人を交互に見る。
するとウララーがこたえた。

「それはお前だからだろう。モララーは力の影響もあるからかもしれんが、お前はギコエルの生まれ変わりだ。ギコエルの気の影響は受けないんだろうな」

祠をにらみながらウララーが説明した。
その目には憎しみの色が宿っている。
それが気になったギコはウララーに聞いてみた。

「おい、お前ギコエルとなんかあったのか?」

いきなり聞かれたウララーは仰天した。
だが、返ってきた返事は落ちついた声だった。

「お前には関係ねえよ。それより早くしようぜ」

「そ、そうだな・・・」

まだ気になっていたギコだが、ウララーの真剣な眼差しをみるとつい返事をしてしまった。

「じゃまず、ギコ、祠の前に立て」

「ここでいいのか?」

ウララーの指示に従う。
モララーは少し離れたところでその様子を見ていた。

「ああ。次に目を閉じろ。俺がいいって言うまで開けるな」

ギコが目を閉じた瞬間、あたりが白い光に包まれた。
だがギコがいた場所は真っ暗だった。
光の世界が闇の世界にかわってしまったようで、ギコは不安を覚える。
だが意識も朦朧としていて、まるでテレビをぼーっと見ているようだ。
そのため複雑な感情はなく、「怖い」、「楽しい」といった単純な感情しか今のギコにはなかった。

しだいに一部が暗闇からぼんやりしているところがある。
しばらくするとじょじょにその輪郭がはっきりしてきた。
それはAAのようで、ギコがついさっき知り合った・・・ウララーに似ている。
だが似ているといってもウララーそのものだった。

さらによく見るとウララーの横にふたりのAAがいる。ギコの親友と似ていたがよく見ると体の色が違ったりウララーと同じように耳に赤い線があった。

その姿はおそらく、あの事件に巻き込まれたであろうモナーとしぃの内面だろう。

さらに数秒後、空中に一人のまっしろな翼と頭にわっかを持つAAが現れた。
しばらくのあいだ四人は言い争っていた。
だが、そのうち4人は1対3で戦い始めた。とおもいきや、ウララーとしぃの内面は魔法で、モナーの内面は銃で戦っていた。そしてギコエルはまぶしいほどの銀色に輝く剣で・・・。
その剣の十字になっている部分に、青く光るまるい石がはめこまれている。
それをギコエルはたくみに操っていた。

しばらくすると、ギコエルの後ろから大量のAAがでてきた。どうやらギコエルに賛同した内面たちのようだ。波のようにこちらにおしよせてきたそいつらは3人をあっという間に飲み込みんんでしまった。そのときギコエルは空中で不敵な笑みを浮かべていた・・・。

そこで、その映像は途切れ、あたりはまた光の世界へと変わった。


「・・・・ぉーい、ギコー」

ギコはモララーの声で目覚めた。

はっとし起き上がるギコに、ウララーは申し訳なさそうに言う。

「わりぃ、モララーの時はこんなことなかったんだが。祠の力の一部をオマエにうつした瞬間、気絶させちまった」

ハァ!?とギコが言うと思っていた二人だが、ギコはまったく違う言葉を口にした。

「いや、なんか俺、夢みていたんだけど」

「「え!?どんな夢だ!?」」

大声をあげ顔を近づけるふたりを手で押し、夢のことをすべて話した。
すると、ウララーが

「おそらく、ギコエルの記憶だろうな」

といった。
小さくつぶやくような声だが、二人はしっかりと聞いていた。
すこし不安そうな顔をする二人に、ウララーは元気よく言う。

「まあ、そんな事別に関係ねえよ。それよか、はやくいこうぜ」

そうウララーがいった瞬間、池が黄金に輝き出した。
滑らかであざやかな光を放つ光を指差し、ギコは聞いた。

「え、この中にはいるのか?」

「「もちろん」」

そう言った二人にギコは両腕をつかまれ、無理やり引きずりこまれた。
問答無用はこれで三回目だ。

「もう強制はいやだああああ!!!」

3人が池の中へ姿を消した後、池は光を失い、ギコの声だけがむなしくあたりに木霊していた。

 ついに冒険が始まる!!(長かったなあ・・・) 第五話 終






第六話(ギコ&???)

月明かりが中を照らす学校の中、何も物音もせず人の声も聞こえない、いきなりココにいたみんなが急にいなくなったような校舎の廊下で、ギコは目を覚ました。

冷たく氷もような床にすわり、壁にもたれかけたままの状態であたりを見まわした。

「(ココがもうひとつの世界なのか?それにしても二人はドコにいったんだ・・・?)」

立ちあがり長い廊下の先を見ると、上に向かって階段がある。木製の手すりつきだ。
次に窓のそとをみると、空に月が浮かんでいるがどうやらここは1階のようだ。
目の前には『1−3』と書かれたプレートのある教室だった。もちろん中には誰もいない。

「あれ?なんか見たことあるようなつくりだな・・・。」

目を細くし、いたるところを見まわす。
よーく観察していると、思い当たることがあった。

「って、よくかんがえりゃ俺が通ってる中学校じゃねえか!!」

1階の長い廊下も、教室の中の様子も、窓から見える街の景色も、月がやさしい光で照らしている校庭も、何もかもギコたちが通う、あの事件が起きた中学校だった。

「ってかなんで中学校にいるんだ?たしか池に入って、それで・・・」

ギコが悩んでいると、廊下が『コツン』という音を響かせた。
だれもいないと思っていたのでビックリして、飛び上がってしまった。

「だ、だれだ?」

震える声で叫ぶが、返事は返ってこない。それどころか音が近づいてくる。
ギコは恐怖にかられた。

『コツン、コツン、コツン、コツン・・・』

月明かりだけが頼りな上、角度上だれなのか顔までは判断出来ない。

「くそ、モララー達だってどこにいるのか分からないのに・・・こうなりゃ、あとは野となれ山となれだ!!」

次の瞬間、

「おりゃああああああああ!!!!!」

「うわああああ!!!!???」

二つの絶叫が廊下に鳴り響く。ギコはなんと相手を確かめず突っ込んでいったのだ。もちろん相手は反対方向へ逃げて行く。

「まちやがれええええええ!!!!」

「助けてモナアアアアア!!!!」

叫んでいたギコだったが、相手の言葉と声で一人の親友が浮かんだ。

「(まさか・・・!?)」

ギコはとまろうとしたが勢いのつけすぎで止まれない。それどころか滑って転んでそのままはらばいでスケートのように滑り、突っ込んでいってしまった。

「モナアアアアア!!??」

「どけええええええ!!!」

だが必死の叫びも空しく、ぶつかって・・・

「いまだ!モナーゲットオオオオオ!!!」

・・・しまわならなかった。持ち前の運動神経で相手の足をつかみ、止まったのである。
だが、つかまれた本人は後ろに背中から倒れてしまった。
≪ドン≫と≪ビタン≫の真中ぐらいの大きな音がした。
ゆっくりとふたりは上半身を起こす。

「痛いモナ〜」

と背中をさすっているAAの胸倉をつかみ、ギコはさけんだ。廊下によるエコー付きで。

「お前、モナーだよな!?そうだろ!?なんでこんなトコにいるんだよ!?俺なんか強制だぜ!?気づいたらこんなとこに一人ほったらかせられてんだ!!しかも夜まで!!しんじられるか!?なあ!!」

「ちょ、ギコ、落ちついてモナ」

体を前後にガクガクされているモナーは言ったが、ギコは聞いてはいなかった。
そして、なおも大声でしゃべりつづける。

「やっぱモナーじゃねえか!どこいってたんだよ!?俺なんか遅刻してパトカーにチャリンコぶつけそうになってみんないなくなったとか言われて強制移動させられておとぎ話聞かされて協力しろとか言われてそんでもって強制的にこっちこさせられて・・・」

話も聞こうとせず口をうごかしつづけるギコに、ついにモナーの堪忍袋の尾が切れた。

「とにかくちょっと待つモナ!!モナが話せないモナ!!」

「あ、わりい」

モナーの大声で正気に戻ったギコはモナーをはなし、立ちあがった。
モナーもギコにつかまれていた所をさすりながら、ゆっくりと立ちあがる。
ギコが落ちつき、いつもとおなじように話す。

「でもなんでここに・・・あっ、そうか内面に追い出されたらこの世界にとじこめられるんだったな」

一人で納得して何度もうなずいているギコに、今度はモナーが聞いた。

「ギコがなんでここにきたのかはわかったモナ。でもここってどこか知ってるモナ?」

そこでギコはウララーに聞いた話をした。夢でみたモナーの内面のことも。

「そうだったモナか・・・」

複雑な顔をしながらモナーは俯く。
今度はギコが丸まった白い背をみながら

「じゃあモナーはどうしてここにいるんだ?」

と聞くとモナーは、

「朝の会の終わりのチャイムが鳴り始めたとたん、あたりが真っ暗になったモナ。チャイムが鳴ってる間は意識があったモナが、終わった瞬間気絶してしまったモナ。で、きづいたらここに・・・」

そのあいだ、ギコはただうなずいているだけだった。モナーののんびりとした声だけが廊下に響く。
なんとなく理由がわかったギコは、続けて聞く。

「みんなは?」

モナーは困ったような顔をした。
だが、それも一瞬ですぐに答えた。

「それがここに来てから、誰とも会っていないモナ。でも、モナ達の教室にいってみて自分の机を調べてみたら、全然心当たりのない銃が引き出しに入っていたモナ。これモナ」

そういうとおもむろに銀色の銃を出した。月に照らされたその銃は、落ちついた、だが鋭い光を放っていた。
ギコはそれを見ながら、

「なんで銃なんかが入っていたんだ?」

「それはわからないモナ。でも、手にしてすぐに・・・」

銃をなでながら、モナーは言う事を迷っているような顔をした。
それにきづいたギコは、「何があったんだ?」と聞くと、モナーは顔をあげ、こたえた。

「声が聞こえたモナ。まるで銃がしゃべったみたいに・・・」

ギコは驚いたが、ゆっくりとした声で質問をつづける。

「何て聞こえたんだ?」

モナーはまた銃に視線を落とし、なでながらつぶやいた。

「『自分はもう無理だ、頼みはお前だけだ。この銃を使って、黒き野望を打ち砕け』って言ってたモナ」

「黒き野望・・・」

ぼんやりしながら天井を見る。築25年の校舎にはあちこちに亀裂が走っている。まるで天を裂く稲妻のように・・・。

黒き野望。それはもしかしたらギコエルのタクラミかもしれない。そしてモナーの聞いた声は戦場で戦い、敵に捕らえられたもう一人のモナーかもしれない。そして今、モナーが持っている銃は、・・・と考えていると、モナーが

「そうモナ!ギコも自分の机調べてみるといいモナ!何かあるかもしれないモナ!!」

あるわけないだろ、だってもう一人の俺はお前の分身を傷つけた奴なんだから・・・そう喉まで出かけた言葉を、ギコは飲み込んだ。

「そうだな。こんな所にいたってらちがあかないし。とりあえずいってみるかア!」

大きな声を出し、モナーとともに階段へ向かう。二人は2年生なので、2階だ。だが、ふたりは気づかなかった。柱の影からギコ達を監視するAAに。そして、そいつが放つ真っ黒な気に・・・。

   第六話 終






第七話(モララー&ウララー)

「・・・で」

モララーが次の瞬間、

「ここどこだあ!!!???」

「うるさい、だまれ」

と軽く流されたモララーは不機嫌そうに顔をしかめた。

「第一、お前の責任だろ!なんでこんなとこにいるんだよ!?おまけにギコもいないし!」

そう、二人が今いる所、それは緑だけで、他の色がほとんどない(あるといったら木の幹の色)、まさに植物天国(?)だった。いたるところに鮮やかな緑色のツルがたれ、木がうっそうと生い茂っている。そして木々の間からはやさしいこもれびが差しこみ、暖かい陽気になっている。地面には土がなく、こけなのに乾いているという聞いた事も見たことも無い植物が生えている。

「でもまあ、俺もここがどこだかしらんがな」

「ええ!?無責任すぎないかそれは!?」

また声を上げるモララーに、ウララーも負けないくらいの大声で返す。

「俺だって分からないことだってあるんだよ!あの池、コッチの世界とアッチの世界の抜け道のくせに俺達を違うところにバラバラにおとしやがって!!」

ウララーですら来たこと無い内面達の世界で、ふたりは途方に暮れていた。
二人の暗い心境とは裏腹に、あいかわらずあたりにはやさしい雰囲気がただよっている。
だが、よく考えれば鳥や動物もいなければ、花もない。ウララーはそのことに気づき、不思議そうにあたりを見ていた。
すると、モララーがしゃがみながら言う。

「どうするんだよ、ウララーにも分からないなんて・・・。敵だっていつ出てくるか分からないし、そのうえギコは一人で、しかも力の使い方知らないのに・・・」

珍しく弱気なモララーに対し、ウララーは強気だった。

「まあ、アイツのことだからなんとかしてるだろ。それより俺達はまずここから出ないと」

しゃがみこんで俯いていたモララーをおこし、方位磁石もナしに歩きだした。

  *

しばらくするとモララーが

「ノドかわいた〜。なんか飲むものないの〜?」

とうなだれながら言う。暖かいといってもさすがに水無しで長時間歩くのはキツい。ちなみに、約120`は歩いただろう。
だがあたりの風景はほとんど同じような所ばかりだった。

「なさけねえなあ、こんなぐらいでもうバテてんのかよ」

呆れながらモララーを見る。前かがみになり、腕を自由にブラブラさせている。
目もうつろで、今にも倒れそうだ。

「ウララーは平気なのかよ〜」

おまけに声まで覇気のない、だらしない声になっている。
ウララーは重いため息をつき、皮肉を言う。

「こんぐらいでへばるようなどっかのどいつかとは違うからな。もともと俺達は反対なんだし」

正論を述べるウララーにモララーは反論できないでいた。
(というより、反論する体力がなかった)


「ん?ちょっとまて」

といきなりウララーが立ち止まった。後ろを歩いていたモララーは、ウララーにぶつかる。だがそんなことを二人は気にしていなかった。

「なんだ?急に」

と言っても、モララーは鼻をさすっている。さすがにいたかったのだろう。

「静かにしろ」

真剣な顔をしたウララーをみて、敵がきたのかとモララーはあたりを見まわした。だが

「水が落ちる音がする」

「まじかよ!?どっちだ!?」

ウララーの言葉を聞いた瞬間、モララーはぴんと立ち、目に輝きが戻った。

「慌てるな」

落ち尽かそうとなだめるような声で言う。
だがモララーはそれよりも早く水のありかをおしえてほしかった。

「いいからどこだ!!」

「アッチ」

ウララーが右斜め前を人差し指で指す。
するとウララーがさした方向へモララーが駆け出した。(というよりダッシュした)

「おい、ちょっとまてよ!!」

ウララーの静止も聞かずなおもモララーは離れて行く。
ウララーも追いかけながらつぶやいた。

「ったく、急がば回れって言うだろうが。つーかアイツ性格変わってる気がするんだが」

するとどこからともなく

『生死の境をさまよっているんだよ。まあ、水は飲ませないけどね』

ウララーは立ち止まった。誰もいないはずなのに声が聞こえてきたからだ。幼い少女のような凛とした声は続けて言う。

『あなたたちのような汚れた人達に、この森は汚させない。さっさと出て行って。少しでもこの森を濁らせたらその時は分かっているよね。滝の水を手で触ったり飲んだりするなんてもっての他だから』

その瞬間、ウララーは走り出した。それ以上『声』は何も言わなかった。

 *

ところ変わって、こちらはモララー。ウララーが聞いた『声』のことなんて露知らず、どうやら滝を見つけたようです。

「やったあああああ!!!!やっと水がのめるううう!!!」

歓喜のあまり大声を出すモララー。その目線の先には大きな滝と滝壷が、透明な水を水底にたたき落としていた。滝がかなでる音と生み出す水しぶきは、自然の壮大さを物語っている。

「よーし、では早速・・・」

とモララーが両手でうつわを作り、水につけようとすると・・・

「まて、モララー!」

と、遠くからウララーがずいぶん焦っている様子で走ってきた。
だが相当息が切れているため、モララーにはうまく伝わらなかった。
それどころか、ウララーにまったく気づいていない。

「その水にさわるなあ!!」

だがすでに時遅く、モララーの手の甲は水に触れていた。
モララーの手から小さな波紋が広がる。
やっとウララーの声がモララーに届いたらしく振り向いたが、その顔は?な顔だ。
状況がまったくわかっていないらしい。

「え?なんで?」

緊迫しているウララーとは違いモララーは呑気に答えた。

「いいから!早く逃げr・・・」

その時、ウララーの目には滝壷から伸びる一本のツルが見えた。
モララーはこちらを向いているため、それには気づいていない。

「モララー!!!」

必死に叫ぶが、モララーは全く気づいていない。
こんなやりとりをしているあいだにウララーはモララーのすぐ近くまで来ていた。
そして、モララーの手をつかもうとした瞬間、

シュルルルルル・・・・・

「ぅわ!?」

ツルがモララーの左手首に巻き、滝壷の中へものすごい力で引きずり込んだ。
いきなりのことでモララーは抵抗すら出来なかった。

≪≪ドッパアアアン≫≫

おびただしい数の泡と波紋ともにモララーを下へ下へと連れて行く。

「モララー!!」

ウララーが助けようと飛び込もうとした瞬間、またあのあたりに響くような『声』が聞こえてきた。

『だから忠告したのに。ここの植物達はみんな「自我」をもっているの。当然の報いだわ』

それに切れたウララーは大声で言い返す。

「水にふれただけで殺すのか!?ここまでしなくたっていいだろ!」

ウララーはそう叫ぶと滝壷へ飛び込んだ。
きれいなフォームでモララーのあとを追う。

『バカね。この滝に入ると二度と生きて出る事は出来ないのに』

そう『声』が言った瞬間、一人の少女が滝壷のすぐとなりに立っていた。
真っ白い絹の衣をまとい、葉のついた細いツルがそれに巻き付いている。
この少女は、ギコやモララーの同級生の弟者の妹、妹者の内面のようだ。だが言葉使いは異なるらしい。

『まあいいわ。どっちかが死ぬともう片方も消えるんだから』

そう言うと冷たい視線で水面を見つめていた。

 *

水中では、ウララーが引きずり込まれるモララーをようやく視界に認めた。
光がさしこんでいるうえ、水がきれいなため水中でも明るく、視界が広い。
周りにはいくつもの木々やツルが生えており、水中だというのに呼吸も出来た。
滝の音が鳴り響く。
だが底無し沼のように中は深く、ウララーがどんなに必死で泳いでも追いつくことが出来ない。モララーは目を閉じていて、開ける気配もない。

『(くそ、いつになったら止まるんだ?)』

その時、急にツルの動きが止まった。ウララーが安心したのもつかの間、こんどは木の根っこがモララーに絡みついた。

『(やばい!)』

ウララーもようやく水底につくと、根っこを力いっぱい引っ張った。だが全然動かない。
がんじがらめになった太い根は、普通のAAの力では切れそうになかった。
・・・そう、『普通の』AAであれば、不可能であろう。だがウララーは『普通』ではなかった。

『(あんまり使いたくないが、こうするしかないか・・・)』

ウララーは右手をあげ、

『「エアーナイフ」!!』

と叫んだ。水中でなぜ叫べるか、というのは置いといて、ウララーの右手にはするどいナイフの形になった空気が握られていた。
そしてそれをそのまま根へ一気に振り下ろした。

   第七話 終








第八話 〜vs.森の精霊〜

≪スパアアン≫という音とともに根が切れた。
その瞬間をついてウララーはモララーをつかむと勢いよく水面に上がって行った。

だがそれを植物が放っておくわけがない。すぐ後ろをものすごい数のツルや根が追って来ていた。くねくねと上下左右に動き、まるでヘビのようだ。

『(くそ、追いつかれる!!)』

もう少しで追いつかれるというところでウララーは振り向き、

『「ウォーターカッター」!』

というとウララーが手を突き出した。
するとウララーにおしだされた水がいくつもの刃になり、植物めがけてとんでいった。
ウララーはそれを確認すると向き直り、泳いで行く。
≪スパン≫といういくつもの音を聞きながら水面を目指した。


「「ぷはあ〜!!」」

こもれびに照らされた水面にウララーとモララーが顔を出した。
モララーも意識が戻ったらしく、飲んでしまった水を出している。

「大丈夫か?モララー」

「ああ、なんとか」

先にあがったウララーの手をつかみ、モララーも這い出る。
その5メートルほど後ろにあの少女がたっていた。

『ふん、なかなかの腕前ね』

その声にはっとし、二人は後ろを向く。

「い、妹者!?」

その姿に驚いたモララーが声を上げる。
だがウララーは冷静で、少女を見ながら言う。

「違う、あいつは妹者の内面。そして、おそらく・・・」

『「森の精霊」』

ウララーと妹者の内面が同じに言った。
その言葉に少女は「へぇ〜」というような顔をしていた。

『そのとうりよ、なかなか頭がきれるのね、アナタ。私はリィ。この森の精霊よ』

モララーは訳がわからず「???」状態だ。
そのことに気づいたウララーがモララーに説明する。

「おそらく外面の妹者はこの精霊の生まれ変わりだろう。ギコとおなじパターンだ」

へぇ〜、と納得しているモララーを横目に、リィを見る。
リィは小さく微笑んでいた。

「おまえ、確かギコエルの計画に加わっていなかったな。かといって反発もしていない。どうしてだ?」

そうウララーが聞くと、リィは当たり前だ、と言うような顔をしながら言う。
そして、まわりの植物を見渡した。

『だって、計画に加わったらここを離れなくちゃいけなくなるじゃない。かといってギコエルにたてついたらこの森にまで迷惑をかけちゃう。だからただ静視しているの』

あいかわらず微笑を絶やさない。
そのリィを見て、ウララーは不快に感じたようだ。顔をしかめている。

「お前はこの森を荒らされるのが怖くて反発しなかったのか。そして、ここに踏みこんだ俺達を消そうとした」

『その通りよ。ちなみに、ここのみんなに心を持たせたのはあたし。だから、みんな私と同じ考えで、私の思うように動いてくれるわ』

その返答にウララーではなくモララーが反応した。
今まで黙って聞いていたが、もう我慢できなくなったようだ。

「それじゃ、ただの操り人形じゃないか!お前は心を持たせたっていうけど、結局操りいとにくくりつけたも同然だ!!」

するとリィは冷たい表情になり、モララーを睨む。
微塵の暖かさも感じさせない表情と声で、モララーに言い放つ。

『よく言うわね、外面はクズのくせに!そっちの世界じゃ、みんなを問答無用で殺しているじゃない!私はただ、みんなに自分の身を守れるようにしてあげただけよ!殺し屋に言われたくない!!』

リィはモララーをにらみつけると、ウララーを見た。
さきほどの笑みはもうどこにもなくなっていた。
その鋭い目つきは、まるでスナイパーのようだ。

『アナタ、内面のくせに外面に手をかす気?おまけにこっちまで連れてきて。私は確かにギコエルには賛同してないけど、外面は敵だって思っているのよ!!』

そこでリィは一息つくと、さらに激しい声で言い放つ。

『ゆるさない。ニセモノに協力するなんて!外面に見方する奴は、たとえ内面でも容赦はしない!!この裏切り者が!!!』

その瞬間、突風が吹き荒れた。
葉が舞い、ツルが揺れ、木々は唸りをあげている。風はウララー達からしたら向かい風で、リィの髪と服が風にはためいている。
そして、リィがゆっくりと両手をあげた・・・。

「くるぞ!!」

ウララーが風に負けないくらい大声で叫んだ。


相変わらず突風が吹き荒れる中、しばらくたってもリィは攻撃をしてくる様子がない。両手を空へ高くかかげ、目をとじたままだ。

二人も注意深くみながら攻撃態勢をとっているが、さすがにつかれたのかモララーが背伸びをした、その瞬間

≪≪ドオオオオオオオオオ≫≫

さらに強い大風が吹き荒れた。

「うわ!」

モララーは後方10メートルほど軽く吹っ飛ばされ、ウララーは必死に地面にしがみついていた。

「(くそ!)大丈夫か、モララー!」

ウララーが叫ぶが、声は風によってかき消されてしまった。
しかし、ウララーはモララーの安否を確かめることが出来なかった。
後ろを向くと今にモララーのようにふっとばされてしまいそうだからだ。
そんな二人を見下ろしながら、リィは言う。

『私をあまくみないで。これでも、風だって操れるんだから』

確かに、これほどの暴風の中でリィは1ミリだって動いていない。
それどころか、風はリィから出ているような気がする。
そう考えたウララーは、よーく目を凝らし、リィの手を見る。
すると、そこには巨大な空気の流れが圧縮しているのが見えた。

そんなウララーに気づいたのか、それとも気づかないのか、リィは言う。

『これはほんの序の口。本番はこれからよ!!』

そうリィが言った瞬間、ウララーの体の至るところに傷が出来た。
ウララーの紫色が徐々に赤く染まって行く。

「(風を刃にした・・・!?いや、ちがう。刃にするには、カマイタチじゃないと無理だ・・・。そんなこと、俺のような奴じゃないと不可能。アイツは森の精霊。風を微妙なコントロールであやつれない・・・。ということは、もしや!!)」

ウララーはリィを見る。その目は緑色に染まり、風の玉を見ている。
だが、それと同時に・・・木も見ていた。
ウララーは確信を持ち、かまえた。
モララーがこの森とはちがうところへ飛ばされたことにもきづかずに・・・。

  第八話 終






第九話 


ウララーがリィとにらみ合っている頃、ギコ達はというと・・・。


≪トントントン≫ ≪トントントン≫
二人分の軽い足音が、窓から月明かりが差し込む階段に鳴り響く。
たまに段の一番手前のサッシを踏み、≪カシャン≫と高めの音をたてる。
木製の手すりに左手を置きながら、ギコは一段づつ上って行く。そのすぐとなりには、うす明かりでよく目立つモナーがいる。
暗さには慣れてきたようだが、しばらくいたモナーと違いギコは手すりが必要なようだ。しかし、それでも時々階段につまづいていた。

≪ガツッ!≫ またギコがつまずいたようだ。しかも思いっきりぶつけたらしい。右足のつま先を顔をしかめながら握っている。

「大丈夫モナ!?あともうちょっとだからがんばるモナ」

そう励ますモナーだが、ギコには「あとちょっと」がとても大きな道のりに思えた。
だがなんとか痛みに耐え、また足を上げる。あと2段・・・というところでまた≪ガツッ!≫と音が鳴る。しかもさっきの時より音がかなり大きい。
・・・みなさんは、ギコがまたぶつけたんだとお思いでしょう。ですが、ぶつけたのは、・・・モナーでした。
ギコに気を取られて自分の足元を全然見ていなかったようです。

「うぐぐぐ・・・・痛いモナ〜」

少し涙目になりながらギコとおなじポーズをとった。だが片足立ちで、しかも運動神経が無に近いモナーは、バランスを崩し、体が後ろよりに斜めに・・・。
もう落ちる、そう思った瞬間、モナーの体が止まった。
ギコの右手がモナーの背中にあったのだ。

「おいおい、大丈夫かよ?人の事ばかりじゃなくて、自分の事もしっかりしろよ」

と、呆れながらギコは言う。だが、その時・・・。

≪ドン≫

誰かが上からギコを押した。

「「え?」」

ギコはバランスを崩し、階段下へ倒れる。もちろん、支えられていたモナーもだ。
階段に背中を打ちつけ、下まで滑り落ちて行く時間がとても長く感じた(byギコ)。
その隙に、ギコを押した張本人は二階の廊下へ逃げて行った。その姿をギコの目はとらえたが、暗くて顔が見えない。しかも、それ以前に、ギコはそれどころじゃなかった。
≪ドン≫という音が二つ聞こえた直後、今度は≪ズザザザザ≫という音。そして最後にひときわ大きい≪ドン!!≫というのが二回聞こえた。
二人のAAは1.5階で止まる。

「いってえ・・・」

まずギコが起き上がる。背中を摩っていることから、どうやら背から落ちたらしい。いわば、不幸中の幸いだ。頭から落ちていれば、大惨事になっていただろう。
ギコはそのまま立ち上げる。続いて、モナーが

「うう〜ん・・・」

と頭を掻きながら起きる。ナゼ頭を か い て いるのかは分からないが、どちらにしろ二人とも無事のようだ。

「ってか、誰なんだよ!さっきの!!いきなり押しやがって!」

ギコが大声でわめき散らしている。階段も壁などの材質は廊下とおなじなので、よく響く。
モナーはその声の大きさに耐えれず耳を塞いでいる。だがそれでもモナーの鼓膜はギコの声で震えていた。

「もういいモナ。それより、はやく教室へ行くモナ」

耳を塞ぎながらモナーは言う。ギコもそれをきき、おとなしくなった。
モナーも立ちあがると、また二人は階段を上る。だがやはり、ギコは何回か足をぶつけた。

 *

「やっとついた・・・」

だるそうに体を前のめりにする二人の前には、引き戸の上に『2−4』ト書かれたプレートがある教室がある。ギコ達の教室だ。
ギコが黒板に近いドアを≪ガラガラガラ≫と開ける。中は、よく見なれた教室。
ギコの机は窓際から3番目の列の一番後ろだ。ギコが先に歩き、モナーがそれに続く。
自分の机に向かう途中、ギコはあることに気づいた。
クラス全員分の机はあるが、どれも横には何もかかっていない。つまり、荷物が無いという事だ。ギコはそれを不思議に思いながら歩みを進める。

ギコが立ち止まる。それにつられ、モナーも止まる。二人の前には落書きだらけの、ギコの机があった。
落書きはすべてギコが授業中に描いた絵だが、どれもへたくそで汚かった。
だがそんなことは気にせずに、ギコは机の引出しに右手を突っ込み、調べる。

 
 手に、何かが触れた。それをギコは目でモナーに合図する。
モナーもギコの目を見て、かすかにうなずいた。
そしてギコは視線を腕の先に戻し、ゆっくりと引っ張りだす・・・。

ギコの右手の甲が見えた後、何やら金色の光が見えた。
さらに引っ張る。ゆっくりと取り出したものを見た瞬間・・・二人は息を飲んだ。
ギコの手には・・・つばの部分にこまかく繊細に彫られた龍がある、黄金色の剣が握られていたからだ。
さらに、その剣の十字の中央に龍の目があり、それは灼熱に光る赤く丸い石だった。
剣は短剣ほどの長さでしかなかったが、ギコが金色の鞘を取ると・・・研ぎ澄まされた黄金の刃があった。
しかもすべて鞘から抜くと、刃が長くなり、日本刀くらいの大きさになった。

「すげえ・・・」

ギコがいろんな角度からその剣を眺める。月明かりを反射して、その光は教室内を照らした。
しかも驚いた事に、ギコの左手に握られた鞘までもが大きくなっている。
いったんギコは鞘に収めてみるが、形は変わらなかった。

二人が目を丸くさせ、もう一度ギコが剣を抜き出そうとすると、思いもよらない事が起きた。
掃除道具入れが揺れている。≪ガタガタガタ≫と激しい音をたて、さらにその揺れは大きくなっていく。
二人が一歩下がった瞬間・・・

≪ガタン!!≫

扉が開いた。さらに、そこからAAが飛び出してきた。一人だ。

「いってえ・・・」

よーくそのAAをみていた二人だが声を聞いたとたん、同時に驚きの声を上げた。

「「モララー!!」」

  第九話 終







第十話 〜非常時の合流〜


「いってえ・・・なんなんだよ、もう・・・」

掃除道具入れから飛び出してきたモララーは、顔を歪めながら立ちあがる。
外傷は特に無いようだが、飛び出た瞬間、床に思いっきり顔面を強打したようだ。
掃除道具入れのドアはもうしまっていて、何事も無かったように平然と立っている。
呆然としていたギコとモナーは、そのまま突っ立っていた。
モララーはまだこちらに気づかず、体についたちりを払っている。
ゆっくりと時が流れる。だが時計の秒針は存在を主張していない。恐らく、壊れているのであろう。





五秒。





十秒。





十五・・・とその時、ようやくモララーがギコたちに気づいた。

「あれ?こんなとこでなにやってんの?」

とぼけた言葉に、二人はコケる。その様子を見て、モララーは「ああ!」と言った。

「なあんだ、ギコじゃん!・・・って、モナー?なんでここにいるの?」

ようやく気づいたモララーが、白いモナーを指しながら言う。
月に照らされたモナーは、やはりよく目立つ。
白い体が闇によく映えていた。

「そうモナ・・・。いきなり飛び出してくるから驚いたモナ」

苦笑いしながらモララーに言う。ギコも立ちあがるとモララーにモナーのことを説明した。もちろん、剣のことも。

今度はモララーが説明する番・・・とその時、≪ガタガタガタ≫という音がした。
一斉に振り向くと、また掃除道具入れが揺れている。
しかも、モララーのときより大きい。尋常じゃないほどの音が、教室、さらには廊下と響き渡る。
三人は素早くあとずさりをした。窓際へ下がる。一番近くにモララー、左後ろにギコ、そしてトナリにモナーだ。息を潜めてその光景をみる。そして・・・

≪≪≪ガタン!!!!!!≫≫≫

三人が飛び上がるほどの大きな勢いでドアが開いた。そして、また≪ドン!≫と音がする。また誰かが転がり込んできたようだ。だがそのAAはそんなことお構いなしと言うように、黒板側へ走る。
月が雲に隠れ、暗くて誰かは分からないが、三人の鼻を血のにおいが突いた。

はっとし、そのAAを目で追う。教卓の所でそのAAは止まっている。荒い呼吸音が聞こえてきた。
掃除道具入れの扉は開いたままだ。そこをそのAAは見ている。
  
  そして、月がまた姿を現すと・・・

全身血まみれになり、ほとんど赤くなったウララーが、教卓にもたれかけていた。
呼吸は乱れ、つらそうに≪ハァ、ハァ≫と言いながら肩を大きく上下させている。

「「ウララー!!」」

ギコとモララーが声を上げると、ウララーは振り向いた。

「あ・・・ギコ・・・!?それと、・・モラ・・」

そこまで言うと、ウララーは地面に崩れ落ちた。教卓に頭をぶつけ、≪ガン!!≫と音がする。
急いで三人はウララーのもとへかけ寄った。近くで見ると、かなりひどい出血だということが分かる。さらに、ウララーの足元は血だまりになっていた。
モララーがウララーの背中に左手を添え、少し持ち上げる。

「おい!ウララー!!しっかりしろ!!」

モララーが必死に叫ぶが、ウララーは目を開けず、荒い呼吸だけしていた。
無常にも月がまた雲に隠れ、再び暗黒の世界となる。
荒い呼吸の中、ウララーが必死に声を絞り出し、かすれた声で一言、

「・・・くるぞ」

ウララーの目は掃除道具入れを向いていた。そして次の瞬間、突風とともにいくつもの鮮やかな緑の葉が、すごい勢いでこちらに飛んできた。

「うわ!?」

教卓を盾にし、必死にしがみつくが体に葉が当たり、切り傷ができた。
・・・ウララーの傷は、恐らくこれが原因だろう。いたるところにある深い傷は、すべて切り傷だ。

そう三人が考えていると・・・突風とともに、誰かが出てきた。
暗闇で光る緑色の鋭い目を見ながら、三人は恐怖に震える。
ギコは、黄金の剣をギュッとつよく握り締めた・・・。

   第十話 終





第十一話 〜作戦〜


突風が吹き荒れる中、ギコは鳥肌が立つのを感じた。恐ろしい戦慄を感じたからだ。ゆっくりと緑色の目は暗闇の中から大きくなってくる。
そのAAが道具入れから足を出して教室の床に降り立つと、掃除道具入れの扉がひとりでに≪ギイイイイ≫と閉まった。
月が雲に隠れていてその姿をはっきりと捉えることは出来ないが、そいつの目だけがまるで宝石のように異様なほど緑色に光っているのが分かる。
モララーに抱えられているウララーが、消えいりそうな小声で言った。

「あいつは・・・森の精霊の・・・『リィ』だ・・風も操る・・・風を使って・・・葉をすごい・・・スピードで・・・飛ばしてくる・・・どこからくるか・・・分からない・・気をつけろ」

とぎれとぎれに発する言葉は、ちゃんと三人の耳に入っていた。
ギコは頷くと、二人に小声で指示する。

「モララー、お前はウララーを看ていてくれ。命を共有してるから、お前が戦うわけにはいかない」

モララーはギコを見る。真剣な表情をしていて、素直に頷いた。持っていたハンカチでウララーの血を拭い始めた。
次にギコはモナーの顔を見ながら言う。モナーはギコがなにを言うか、大体予想はついた。
だが、きちんとギコの話しを聞く。

「モナーは、俺と一緒にあいつと戦う。俺がモララー達とオマエからアイツの注意を反らすから、その隙に銃で攻撃するんだ。その代わり、致命傷を絶対負わせるな」

「分かったモナ」

モナーが頷いたのを確かめると、ギコは教卓の横から敵の様子を伺った。
風はまだ吹いているが、先ほどより弱く葉も飛んでいない。だが床には何百枚という大量の葉が落ちていて
緑色の目だけが無気味に闇で光り、こちらを睨みつけている。

月がまた姿を現した。
教室にゆっくりと穏やかな光が差し込む。窓から床へと指しこんだ光は、様々なものを照らす。
床、机、ロッカー・・・
そして相手の姿を捉えた瞬間・・・ギコの背筋は凍り付き、再び恐怖に刈られた。
妹者のようなかわいらしい面影は全く無いリィがいたのだ。うす紫の髪は全て針のように逆立っている。白いはずの衣はどす黒くなり、巻いていたツルは葉ごと枯れている。
口は耳近くまで裂け、鋭い二つの牙があり、つりあがった緑色の目は相手を射すくめるような目だった。

「なあ、あいつが森の精霊だって言うのか・・・?」

ギコはモララーに聞く。
その言葉をきき、モララーとモナーは教卓から覗きこんだ。
モナーはかたまり、その顔には恐怖の色が濃く浮き上がっている。
モララーも驚きを隠せない。つい先ほどまでは妹者そのものだったのに、ほんのちょっとでここまで
変わるとは思っていなかったからだろう。

ギコは、足元に散らばった3枚の葉を見た。
澄んだ緑色なのに、その色が闇を隠し持っているかのように黒いのをギコは感じた。
そのうちの一枚には、少しだけ真っ赤な血がついている。
ふと自分の右腕を見る。赤く細い直線が綺麗に描かれていた。

「ギコ」

ふと名前を呼ばれて、振り向く。ウララーが上半身を起こした状態で座っていた。
息もだいぶ整ってきたようで、深呼吸を繰り返している。恐ろしいほど速い回復力だ。

「おい、大丈夫なのか?」

ギコは心配したが、ウララーは

「大丈夫もなにも、コイツには回復術の力をやったからな」

そういってモララーを指す。モララーの手は黄色く光っていて、その手をウララーの傷口に当てている。
安心したギコはウララーに向かい、言いきった。

「ぜってえ勝ってやる」

「おう。頼んだぞ」

そうウララーと言葉をかわしたギコは、モナーに向き直り、作戦を立てる。
風もだいぶ弱くなってきたが、リィの増悪はますますつのっているように感じた。ひしひしと殺気が伝わってくる。


作戦はいたってシンプルで、次の通りだ。
1、まずスピード自慢のギコが飛び出し、相手の背後に回る。
2、ギコが剣で戦い、リィに黒板に対し背を向けさせる。
3、攻撃準備の態勢をリィがとった瞬間、モナーが隙を見て撃つ。(ただし、致命傷にして殺してはならない)

問題は、まだ一度も使った事の無い武器を二人が扱えるかということだ。
モナーは銃なので引き金を引くだけでいいが、ギコは剣だ。
相手は遠距離を得意とするだろう。ギコには不利だ。
だがこの仕事をやれるのはギコしかいない。


腹をくくり、リィへ立ち向かう。

第十一話 終





第十二話 〜バトル!〜

しんと静まり返った教室。窓も閉まっていて、外からの音を遮断していた。
あれだけ吹き荒れていた風も弱まり、いまでは空気のわずかな流れもない。
静寂に包まれた教室で対峙するAA達は、みな静まり返っている。
その静寂を、白い直線が打ち破った。

≪ヒュンッ≫

教卓から何かが後ろに向かって飛んだ。リィはそれをひらりとよける。≪カンッッ!≫と音がし、それが何か確かめる。
チョークだった。白いチョークは後ろの小さな黒板に当たり、粉雪のような粉を撒き散らしながら落ちて行く。
黒い黒板には小さな丸く白い跡が残った。

そしてリィが振り向く瞬間、ギコが飛び出した。手には眩しく輝く剣を持っている。
リィも気づきかまえたが間に合わず、ギコは横腹を斬りつけた。

≪シュッッ!!≫

短い音とともに、一、二滴の赤い液体が散る。
すぐさまギコは離れた。確かにそのまま攻撃をしていたら勝てるかもしれない。
しかし、問題があった。リィが着ている衣が異様に硬いのだ。
その証拠に、リィはほとんどダメージをうけていない。

「(ヤバい、まったく刃がたたねぇ・・・モナーの銃にかけるしかねえな)」

そうギコは思いながら、窓際へ移動する。リィもギコを目で追う。
その邪悪な目に震えながらギコはふたたび剣をかまえた。

なぜそのまま後ろの黒板へいかなかったのかというと、距離が狭すぎたからだ。
間合いをとる間もなくやらてしまう。そう考えたギコは、うしろではなく横を向かせる事にしたのだ。

リィが右手のひらをギコに突き出す。ギコはいつでもよけられる態勢をとっていた。

≪ビュゥン!!≫

リィの突き出した右手から、一本のかなり太いツルが出てきた。
ものすごいスピードでギコを襲う。だがギコも間一髪で横に飛び、避けた。
一旦ツルは手のひらへ戻る。そしてまたギコに向かって飛んできた。

「うおっと!!」

≪ガン!!≫

ギコが再度避けた瞬間、壁にツルが突き刺さった。その部分のコンクリートは剥がれ落ち、パラパラと舞う。
まともにくらってはひとたまりも無いだろう。
またツルが手の平へ戻るとき、教卓の横で銀色の光が瞬いた。

≪パアン≫

モナーが隙をつき、銃を撃ったのだ。放たれた銀色の銃弾は、リィのふくらはぎをかすった。
まだ銃の扱いになれていないモナーは、うまくねらいを定められなかったのだ。
弾はそのまま直進し、後ろのロッカーに穴をあける。穴は相当深く、かなりの威力だということが分かる。
リィも驚いていたが、一番驚いたのはモナーだった。なにしろ、こんな銃がこれほどの威力だなんて思っていなかったからだ。

リィが教卓の方へ向く。そして右手のひらを突き出した。
ギコが危険を察知し切りかかったが間に合わず、すでにツルは伸びていた。

≪ドゴオン!!≫

教卓のど真ん中におおきな穴を開けた。ギコはすぐさまツルを切ったが、モララー達が心配だった。
モナーは教卓の横にいたので助かったが、治療中のモララーとウララーは分からない。教卓の下の隙間から足元が見えるだけで、安否までは分からないのだ。

「モララー!ウララー!!」

ギコは叫び走り寄ろうとしたが、その瞬間目の前を一枚の葉が掠めて行った。

≪シュンッ!≫

≪パリン!≫

葉はそのまま窓を割り、外へ飛び出した。
ギコがリィを見ると、リィは鋭い目つきでこちらを睨んでいた。
眉間にしわをよせ、口を歪めている。あまりの恐怖にギコは固まった。
まさに『ヘビに睨まれたカエル』だ。剣をかまえることも、回避態勢をとることもできずにいた。

ギコめがけてふたたび一枚の葉が飛んだ。ギコはもう無理だと諦めた。

「(俺、死ぬんだな・・・)」

それでも反射的に顔を腕で覆ったが、防げない事ぐらいギコもわかっていた。
ギコまであと5センチと迫ったその時、

≪ビュンッ!≫

≪シュン≫

≪ドスッ!≫

三つの異なる音を聞いたあと、ギコはゆっくりと腕をどかし、目を開いた。
『何か』が目の前を通り越したのを感じていたが、何かまでは分からなかった。
おそるおそる壁をみると・・・空気でできた鋭利なナイフがある。
空気といえどかなり圧縮されているためか、その姿が見える。そして、そのナイフは葉を壁に突き刺していた。
・・・みなさんは、お気づきでしょう。誰のしわざかを。
ギコがナイフが飛んできた方向を見ると・・・

「俺は物質を刃物に変えるのが得意なんでね」

両手に二つの空気で出来たナイフ・・・エアーナイフを握ったウララーがこちらを向いてかまえていた。
おまけに体のどこにも傷が見当たらない。これはモララーの力のお陰だろう。

「ウララー!!」

ギコは大声を上げた。その声は大きく、階段まで響いていた。
リィもこれには驚き、ここにきてから一度も動かしたことのない口を動かした。

「お前、なんで!!さっき確かに仕留めたはずなのに!!」

姿こそ恐ろしいが、声はあの凛としたかわいらしい少女の声だった。
声と姿のギャップがすごいリィに、ギコは思わず笑ってしまった。
リィは呆然としている。『さっき』というのはツルで教卓を貫いた時のことだろう。

「あんなぐらい、簡単に避けられる。それよりも・・・」

ウララーはリィを見て言う。その声は、厳しい声だった。

「お前、幻だな」

その瞬間、リィの体が光り出した。その光は真っ白で、教室どころか廊下、さらには外までとあたりを一瞬にして光の世界へと誘った。
あまりの眩しさに、その場にいる全員が目を細め、額に手をかざす。光で満ち溢れた教室は、すべてのものが白く輝いていた。
だがそれもほんの3秒くらいで、すぐにまた暗黒の世界となった。
あまりの眩しさに目を細めていたギコだが、目を開いてみると・・・

「え・・・?」

誰もいなかった。
リィがいたはずの場所は、ただ漆黒に染まっているだけだった。
四人は走り寄ってきたが、近くで見てもやはり何も無い。

「どうなってんだ・・・?」

ギコが思わず口にすると、ウララーが

「幻だったんだよ、あいつは。おそらく、ギコエルに賛同してる奴のしわざだろう。幻術っていうんだ。それにしても、見抜くだけで消滅するとは・・・」

今まで黙っていたモララーだが、ウララーに聞いた。

「見抜いただけじゃ解けない幻もあるのか?」


それについてウララーが説明する。

幻術というのは字の通り術師が幻をつくりだす術の事。
かなり腕の立つ術師だと幻が単独で動き、しかも意思も持たせる事が出来る。それにより幻は話したり、自由に動き回ったり出来る。
だが意思を持たせるにはかなりの精神力と術力が要求される。まだ駆け出しの術師には到底まね出来ない高度な術だ。
まだベテランとまでいかなくともそこそこの実力なら出来ない事は無い。
それでも術師本人が幻の近くにいて、つねに力を送ってやらないと幻が脆くなっていく。
近くにいて力を送るも、その継続時間はたかが知れている。なにしろ膨大な精神力と術力が必要だからだ。
そうなると、ただ見抜いただけで消え去ってしまうこともあるらしい。



「つまり、さっきの幻を作ったのは対して強力な術師じゃないってことだ」

説明を聞いた後、今度はモナーが聞く。

「じゃあそいつはすぐ近くにいるっていう事モナ?」

モナーの珍しく鋭い推理に、全員はっとする。
その時、ウララーがバッと後ろのドアを見た。わずかな隙間から誰かが覗いている。
これがまた都合の悪い事に、月の光が届いていない。
そのAAは走り出すやいなや、あっというまに闇に溶けこんだ。

「くそっ!俺としたことが、全然気づかなかったぜ!!」

そう言い捨てるとウララーは勢いよくドアめがけて走りだした。3人も慌ててそれに続く。
乱暴に開けられたドアは≪バン!≫と大きな音を立て、反動でまた閉まって行く。それをギコが受けとめ、また押し返す。
弱めだったためか、もう跳ね返ってくることはなかった。
続いてモララー、モナーとドアのサッシをまたぐ。
ついに誰もいなくなり、一気に教室は静まり返った。
いきなり静寂に戻った教室は、どこか寂しげな雰囲気が漂っていた。

   第十二話 終






第十三話 〜別行動〜


≪ドタドタドタ・・・・≫

数人の大きく雑な足音が暗い廊下に鳴り響く。月明かりも入らず暗くて湿っぽい廊下は、教室より一層音を大きく響かせた。
一人のAAが美術室の前を通ると、8メートルほど離れて四人のAAが同じ所を通る。暗さのせいで、どれが誰かは分からない。
だが最後尾のAAはもうすでに息を切らしており、口を大きく開け≪ゼィゼィ≫と気管支が乾いた悲鳴を上げていた。
本人は走っているつもりだろうが、その速度は歩いているのとほぼ同じといった所だろうか。
それに気づいた一番近い一人のAAが戻る。さらにそれに気づいたAAが立ち止まり、叫んだ。

「どうした!?何かあったのか、モララー!」

この声はギコだ。彼は体力に自信があり、足も速い。
そのため、先頭のAAからは比較的近い所を走っていた。腰の左側には黄金に輝く剣をさげている。鍔の龍が真っ赤な目を光らせていた。
後ろへ戻ったAAはモララーらしい。そして恐らく、一番遅いのは運動神経ほぼゼロのモナーだろう。となると、先頭はウララーだ。
モナーのもとへモララーがたどり付くと、モナーは膝からへなへなと崩れ落ちた。
モララーはそれを受けとめ、ギコに向かって叫んだ。

「モナーのことは俺に任せておけ!それより早くウララーを追いかけろ!」

ギコは頷き、前へ向き直ってまた走り出した。
だがウララーの姿は闇に溶けこみ、分からなくなってしまっていた。
そこでギコは視覚ではなく聴覚に頼ることにした。目を閉じ、精神を集中させる。

<ドトトドト・・・>

わずかな音が上から聞こえてきた。ギコは目を開け、階段に向かって走り出す。
一階から上がってきたのは西階段だが、今の位置からして東階段の方が近い。一年ちょっとこの校舎で過ごしてきた感覚が、そう告げていた。
ダッシュで東階段を目指す。腰で剣がわずかな金の光を放ちながら時折<カチャッ、カチャッ>と小さな音を立てていた。

十数秒走るとギコの前には山のようにそびえ立つ階段があった。
ここの階段は西階段のような木製のてすりではなく、みなさんもよくご存知であろうプラスチックのてすりが付いている。
ギコは大きく一発目に右足をあげると、そのまま2段抜かしで駆け上がって行った。
三階はこの学校の最上階で、もう上への階段はない。その代わりちょっと高めの位置に鉄製のはしごがあり、天井に四角い蓋がある。
ギコは音が聞こえた方向へ走り出した。まっすぐ前を見ながら、紫色の背中を追って・・・。

 *

二階でダウンしてしまったモナーと付き添っているモララーはというと・・・。

・・・同じ所でまだ座り込んでいる。というか、モナーは寝転んでいる。
モララーも必死に体力を戻させようとしているが、ウララーの治療ですでに疲れきっていたようだ。
ギコ達についていけたのは持ち前の根性のお陰だろう。
だがすでに力を出し切り、全速力疾走したため、体力的にも精神的にもモララーはボロボロだった。
手の光も弱く、モナーが回復するにはかなり時間がかかりそうだ。

・・・こうなりゃ、日ごろから運動しとけばよかった。と、モナーは思っているだろう。(ナレーターの勝手な解釈だが)
二人とも疲れきっていて会話も全く無く、ついにモララーがまでもがその場に寝転んだ。氷のように冷たい床は、徐々に体温を奪って行く。
だが走り回って体が熱くなっていたモララーには丁度よく、快適だった。
そのまま目を閉じてしまい・・・寝息を立て始めた。当分、目を覚まさないだろう。

ゆっくりと動く月により、この寂しい廊下にも光が差し込む。
今まで気づかなかったが、どうやら満月のようだ。黒い空間にぽっかりと輝くまるい池が浮かんでいる。

やさしい光が二人を包み込む・・・。

 *

バテバテで疲れきった情けないAAと、付き合わされたAAが仲良く眠っている頃・・・。

「なんだよ!どこにいったんだよ!あの二人は!!」

ギコが三階の突き当たり、つまり行き止まりで叫んでいた。
三階をずーっとたどって来たのに、目の前には白い壁と透明なガラス窓。すぐ左には西階段がある。
なぜか二人には会わなかったのだ。
普通ならウララーだけで「逃げられた」や、二人いて戦ったり言い争っているはずだが、どちらの姿もない。
一生懸命走ってきたギコにとって、これほど不思議でムカつくことはあるだろうか。
もう一回探してみようかと耳をすませ、神経を集中させた所・・・

わずかな金属音が聞こえた。
それも、校舎内ではないようだ。音が篭り響いている感じがしない。
窓に近寄り外を見まわしても全く人影はなかった。
ギコがキョロキョロしていると、いきなり

≪ガキン!≫

と、ひときわ大きい音がした。それも真上からだ。
おそらく屋上からのものだろう。天井の四角い蓋が東階段のようについていて、時々≪ガタン≫と揺れていた。
ギコは確信を持ち、はしごに掴まろうとジャンプする。だが、剣の重さで跳躍力が半減してしまっていた。
高い位置にあるはしごは、何もつけなくて跳んでもギリギリなのに、重い装備があるとなおさらとどかなかった。
おもいっきりしゃがみこんでも・・・あと5センチ。
遠くから勢いをつけても・・・おしい、中指が少しだけかすった。
こうなれば方法はあと一つしかない。
剣を置いて行くしか。だが、武器無しのギコほど戦いに関して無力なギコはないので、そうしても意味が無い。

「ウララーみたいに自由に出したり消したり出来たらいいのに・・・」

すっかり息を切らしたギコは、挙句の果てに弱音までも吐いてしまった。
こんなことで何も解決は出来ない。
ギコは途方に暮れていた。

第十三話 終





第十四話 〜月光下の1vs1〜


ギコが踏ん張り、バテバテコンビがようやく目を覚ましたころ、ウララーはフェンスのない月光下の屋上で、ある一人のAAと対峙していた。
相手は手に真っ黒な霧を纏った日本刀を持ち、ウララーは月光と同じ色で輝く剣を持っていた。月の光から作ったのだろう。

相手が前へ踏みこんでくる。ウララーはそれを避け、態勢を整える。
相手が刀を振り下ろせば、それを剣で受けとめる。

これの繰り返しだった。普段のウララーならこの程度攻撃はさっとよけ、相手を戦闘不能にまで追い込むだろう。
だが、ウララーはそれをしない。いや、出来なかった。

なぜなら、相手が・・・『元』仲間であり戦友だからだ。
ギコエルと戦ったときに連れて行かれた仲間・・・『エー』だ。
ギコ達の親友のしぃの内面だろう。淡い桃色の体に、頬に赤いアスタリスク。そして耳には、ウララーと同じ赤い横線が入っていた。
だがかわいいイメージの色とは裏腹に、目には輝きの欠片もなく、うつろな目はまさに操り人形だ。

ギコエルに今操られているエーを、ウララーはどうしても傷つけることが出来なかった。
だがそれに対しエーは何の迷いもなくウララーに攻撃を仕掛けてくる。操られているので、当たり前だろう。

≪ガキィィィィン!!≫

剣と刀がぶつかり合う。これで何度目だろうか。こうしている間にもウララーの体力はどんどん減っていき、息をきらしながら必死に防御している。ウララーが地に手をついてしまうのも時間の問題だ。
武器を押し合っている二人だが、息を切らしているウララーに対しエーは口さえ開いていない。
体力の限界が近づいてきているウララーは、あとずさりをしてしまっていた。だんだん隅へと追い詰められ、とうとう東階段の丁度真上まで来てしまった。
必死に剣を押しているが、足の筋肉はすでに限界になってきていた。
右足のかかとがついに中に浮いてしまった時、

≪ガン!   ガン!≫

ウララー達とは反対方向から響くようなにぶい震えた音が聞こえてきた。
なにかで屋上へ通じる蓋を突いているようだ。とぎれとぎれに聞こえることから、ジャンプしながら突いているのだろう。
ウララーは素早く横へ飛び剣を手放す。地面へ落ちて行く途中、剣は光へと戻った。
そんなことは気にせず、ダッシュで蓋を目指す。だがモナーまでとはいわないもの、かなりスピードダウンしていた。
すぐさまエーも追いかける。恐ろしく速い足は、すぐさまウララーに追い付き、刀を振りかざす。
ウララーはそれを横に転がり、避ける。
だが立ちあがる間もなく襲い掛かる銀の刃に、成すすべなくただ転がりながら避けていた。

≪ガン!         ガン!≫

音の空白も徐々に長くなっていく。
あせれば焦った分だけ、ウララーに浅い切り傷がついていった。
それでもだんだん音がする方向へ近づいて行っている。音は、まだ耐えない。
かすかな希望を抱きながら、四角い蓋を目指す。

 *

一方、蓋の下ではギコが懸命に鞘がついた剣で蓋を突いていた。
勢いをつけ、おもいっきりジャンプ。剣をめいっぱいのばし、蓋にあてる。
なんとか蓋だけでもあけて、そこにロープかなんかを結び付けようと考えたのだ。肝心のロープはまだ探していないものの、蓋だけでも開けておこうと剣を使っている。
だが何度突いても開く気配はなく、ギコも疲れが溜まってきていた。一度剣を床に下ろし、一息つく。今度は剣をつけずにジャンプしてみた。・・・届いた。右手は一番下の横棒を掴んでいた。だが、肝心の剣がないと意味が無い。そこで、5教科オール1の頭で懸命に考える。(ぶらさがった状態で)

「(そうだ!この手があるじゃねえか!)」

とりあえず右手を離し、地面に着地する。するとなぜかしゃがみこみ、右足の靴ひもを解き始めた。そして、靴から引き抜く。左も同様にした。その二本の紐の端どうしを結び付け、一本にする。なかなか長いひもが出来た。
ジャンプしてはしごの一番下に一回だけ駒結びをする。左右均等の長さになるようにだ。垂れた二本のひもは結構長く、ギコも余裕でつかめた。
今度は剣を持つ。そして、二本のひもで剣をくくり付けた。手を離し、ギコは後ろへ下がって行く。ひもをなくした靴はいまにも脱げそうなほどガポガポだった。

5メートルほど離れると、今度は勢いをつけて猛ダッシュ。はしごのすぐ下までくると、おもいっきり飛びあがった。
ギコの右手がはしごを掴む。左手もはしごを掴ませると、右足を掛けて上った。なんとか靴は脱げていない。左腕は数段上のところをつかみ、ピンと張っている。
右手はというと、なんと片手で剣をくくりつけた紐を解いている。そして、解き終わった瞬間・・・剣が落ち始めた。

「うわっと!!」

手が届く距離ギリギリでなんとかギコは剣を掴んだ。そのまま持ち上げ、腰に装備する。

「おっしゃあ!!」

作戦が成功したのがよっぽど嬉しいのか、歓喜の叫びをあげる。
そしてようようとはしごを上り、重い鉄の蓋を開けた。ついにギコの顔に月の光が降り注ぐ・・・。

 第十四話 終





第十五話 〜First Stage、Final round〜


ギコは靴がガポガポのまま屋上へ顔を出した。まず月が視界に入り、あまりの眩しさに目を細める。だがすぐさま、≪ドン!ドン!≫という地をなにかで突く音がした。
一気に屋上へ踏みこむと、ウララーが地を転げまわっているのが見えた。そして音の正体は、ピンクのAA、エーの刀でコンクリートを刺す音だった。

「ウララー!」

ギコが剣を引き抜き、二人のもとへ突っ込む。その声に二人の動きが止まった。

「ギコ!?」

ウララーが叫ぶ。体のあちこちには、細かい切り傷がある。
エーはというと、刀を上に持ち上げた状態のまま、止まっている。その隙にウララーが起き上がり、離れた。
ギコはまだ突っ込んでいるが・・・

「って、うおおおお!?」

・・・こけた。靴が両方脱げ、近くに転がっている。そのままギコは前へ顔から地面に近づいて行った。痛々しい音が鳴り響く。
顔をさすりながら起き上がるギコに、エーは刀を振りかざしながら走り寄っていた。ウララーが気づき、すぐさまエアーナイフを刀めがけてぶん投げる。

≪ガキイィィィィン!!≫

見事命中。高い金属音とともに、エーは衝撃で刀を手放す。そのまま刀は土の地面という暗闇に吸い込まれていった。エアーナイフは空気に戻り、消えた。
ギコとウララーが並ぶ。その間に、ウララーはエーのことについてギコに話した。

エーはその場に立ちすくみ、ぼんやりとしている。その目線は、満月に向かっていた。ふと、満月に雲がかかる。あたりは一気に闇の世界へと変貌した。
だがそれもほんの数秒。すぐにまた月は姿を現した。だが、その月を背景に、一人のAAが中に浮かんでいた。

「「な!?」」

ギコとウララーは驚愕の声をあげた。ふたりが見た月の前のAAとは・・・
二枚の大きな翼と、頭の上にドーナッツを細くしたような黄色いリングがある。その姿は、まさに『天使』。それも、ギコそっくりのAAだった。

「ギコエル!?」

ウララーが大声をあげた。ギコはその言葉に驚き、食い入るようにそのAAを見る。顔立ちといい、体つきといい、どれをとってもギコそのものだ。ただ違うのは天使の風貌だけだった。

ギコエルと言われたAAは、不敵な笑みを浮かべながらひび割れた屋上へ降り立った。そしてエーに近寄ると、右手をエーの額におしあてる。エーはゆっくりと目を閉じ、足元から崩れて行く。
それをギコエルは受けとめ、そのまま俗にいうお姫様抱っこでエーを持ち上げた。体を怒りで小刻みに震えさせているウララーと呆然としているギコに向き直る。
そして、ギコそっくりの声とぬくもりを感じさせない冷たい目で二人に言い放った。

『ここまでこれたことは褒めてやる。だが、次はもっと強力な足止めを用意してある。せいぜい頑張るんだな』

そう言ったとたん、ギコエルの後ろに大きな穴が開いた。中は真っ黒な渦が巻いている。ギコエルはエーを抱えたまま、背を向けてそこへ入って行った。

「まて!」

二人が追いかけようと走り寄ったが間に合わず、すでに穴は点となり、閉じてしまっていた。
二人は立ち止まり、ウララーは悔しそうに拳を握り締めた。

冷たい一陣の風が吹く。ひび割れたコンクリートの屋上を、黄色い月が眺めていた。

第十五話 終














『光の先へ』―First Stage― 「中学校」    完

あとがきはありません。

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