生け贄と神々



「生け贄と神々」



「生け贄」なんて、お話の中とか歴史上とか、そういうものでしか聞いたことなかった。

大部分の奴はそれが普通だろ。

お前に想像できるか? まさか自分がその生け贄にされるなんて。

俺だって、いまだに信じられないよ。何これ、ドッキリ?

そうだったらどんなにいいことか。

見知らぬ奴に見知らぬ場所でいきなり「あなたが今回の生け贄に選ばれました」なんて言われたらどう思う?

それも、やったら淡々とした無機質な声で、そのくせ表情は笑顔だなんて。

「はい、そうですか」なんて信じる方がおかしい。

もしかして、俺狂ってるの?

嫌だよ。自分しか信じられない今の状況で、その自分が狂っているなんて。

そういえば名乗ってなかったな。俺はフサだ。

本名じゃないけど、みんなそう呼ぶから。細かいことは気にするな。

幸運なことにしばらく何も起こりそうにないし、聞いてくれるか?

哀れな生け贄の身の上話をな。



事の始まりは、昨日だ。

もしかしたら昨日じゃないかもしれないが、とりあえず便宜上昨日って事で。

珍しく残業がなかったから、たまにはと思って真っ直ぐ家に帰ることにしたんだ。

そうそう、俺サラリーマンな。毎日上司とかに頭下げてるわけ。

駅から家まではだいたい10分くらいなんだけど、途中に橋があって、そこに人が立ってたんだ。

その橋っていうのが、結構高さがあって、しかもその下の川もかなり深いし流れ速いからさ、わかるだろ?

しばらく見てたんだけど、そいつは川のほうむいたままで、その時俺には思いつめてるように見えた。

で、話しかけてみたらさ、こっち向いた顔が笑顔なの。その時の俺の気持ち、わかる?

その後にそいつが言ったのがあのセリフ。

「あなたが今回の生け贄に選ばれました」だって。

わけわかんなくて唖然としてる俺の腕をつかんで、あいつはそのままの笑顔で何か意味のわからない言葉を呟いた。

光に包まれたっぽくて、眩しくて目を閉じたら、エレベーターに乗った時みたいな、あの変な気分がして、目を開けたらこの部屋にいたんだ。

意味わかんなかったよ。え、何これ、どうなってんの? って。

パニクってる俺に、そいつは相変わらずの表情で「こちらが説明資料になります」っつってこのファイル渡してそのまま行っちまった。

今だからこそ落ち着いて眺められるけど、ずいぶん豪華な部屋だよな。

床は絨毯だし、暖炉あるし、家具もなんか調度品っぽいし。……語彙が貧しいとか言うなよ。

このソファーも座り心地めちゃくちゃいいしな。

外国にある貴族だか王族だかが使っていた昔の城ってこんな感じかなって。実物見たことないけど。



だいたいのいきさつはわかったか?

とんでもねー話だよな。ありえないよな。

今頃つーちゃんは心配してくれてるかな……

ん? このファイルには何が書いてあるのかって?

わかったわかった、今説明するから。

見た感じパンフレットっぽいよな。内容はパンフなんて生易しいもんじゃないけど。

正直、仕事以外で三行以上の文章は読む気しないけど、今回ばかりは例外だったな。

落ち着いてからすぐに読み始めた。物凄い勢いで。

簡単に説明するけど、多分信じられないと思うぜ。俺自身信じきれないからな。

じゃあ、話すから。



「神様」って信じてるか?

その辺じゃいろんな宗教があるけど、俺は別に特別どれかってわけじゃない。

とりあえず居るんじゃん? みたいな。大部分の奴と同じ考え。

俺が生け贄ってのに選ばれたっぽいのはもう話したよな?

生け贄っていうのは、たいてい神様にささげられるものだ。

俺も神様にささげられるためにここに連れてこられたらしい。

ささげられるって言っても、とって食われるとかそんなんじゃないから。

ついでにここは天界っていうらしい。ありきたりだな。一応言っとくけど、天国じゃないからな。天界天界。

つまり、神様は本当に存在していて、ここに住んでるらしいってことだ。

俺はその神様に会うらしい。

な、信じられないだろ?

そういえば、俺はずっと神様って一人だと思ってた。

頂点に立つ、たった一人の、計り知れない力を持つ、世界の創始者。

でも、違ったんだよな。凄いぜ。なんと四人もいるらしい。

一人でも十分凄そうな奴が四人だぜ?

その四人のところで一緒に暮らす普通の人間が、生け贄。

生け贄って、俺が初めてじゃないらしい。常に一人いるそうだ。

前の生け贄が死ぬと、新しい生け贄が選び出されるらしい。

要するに、死ぬまでここにいろってことだよな?

ゴメンだぜ。俺にだって家族も帰るべき場所もあるからな。

だけど、生け贄ってすぐ殺されそうなイメージあったから、別にそんなことないってのは良かったな。

だから今こんなに楽観的なのかもな。死ななけりゃとりあえずは何とかなるって。

楽観的なのはもともとの性格も関係あるかもしれないけど。



あともう一つ大事なことがあるな。なぜ生け贄が必要か。

四人の神様は、神様ってくらいだから不老不死らしい。

でも、気が遠くなるような長い年月を、ずっと同じメンツ、しかもたった四人だと、嫌になってくるよな?

まだ生け贄ってもんがいなかったころ、嫌になった神様たちが喧嘩し始めたらしい。

神様の喧嘩ってハンパじゃないな。恐竜が滅びたのはその喧嘩の影響だってよ。

そんで、どうしようかと悩んだ挙句に、考えられたのがこの生け贄だ。

つまり俺達は、神様が退屈しないための、新しい刺激って奴だ。

かなり昔から続いてるらしいぜ。紀元前だぞ?



あ、俺をここに連れてきた奴の説明もしてなかったか。

あいつは、神様たちのお世話をする、召使いらしい。

あれと同じ奴がたくさんいて、料理とか掃除とかするんだと。

神様と同じで不老不死だし、食べたり眠ったりも必要なくて、名前や個々の性格ってのもないそうだ。

昔神様が創ったらしい。増えることも減ることもない。

まぁ、こんなもんかな。

お、実に都合よく召使いが来たぜ。

聞いてくれてありがとな。いい暇つぶしになった。

この現状から軽く目をそらすこともできたし。あ、なんか緊張してきた。

行ってくるから、無事を祈っててくれよ?



     ◆ ◆ ◆



フサは大きく、そして他よりも豪華な扉の元にたどり着いた。

ここまで彼を連れてきた召使いがそばを離れ、同時に扉の前で待機していた召使い達が重そうな扉を開け放った。

まず目に入ったのはずっしりとした五角形のテーブル。

「座ってお待ちください」

召使いの一人が言ったので、フサは部屋へと足を踏み入れた。

どこに座ろうか一瞬迷い、結局一番近くにあった椅子に座った。

部屋の広さ自体は先ほどまで居た部屋と大差ないはずだが、その割に開放感があるのはきっと天井が高いからだろう。

部屋の奥にも入ってきた時と同じような扉があった。

背筋をピリピリとした緊張が走る。

これから神と会うのだ。



ついに扉は開いた。

フサが使ったものとは違う、もう一つの扉から、四人が現れた。

それぞれ白いローブを着ているが、純白ではなく、微かに色がついている。

そして、背からはそれこそ混じり気のない白く輝かんばかりの翼が生えている。

フサは礼儀や会社での習慣などを抜きにして、椅子から立ち上がった。

彼らから発せられる威厳というか、神々しさというか、そういったものを感じ、自然と足が動いた。

フサは世界の創始者である神々と対面した。

おそらく、もう元の生活へ戻ることはできないのだろう。

彼の今までの生活は崩れ去った。

これからの彼は今までの彼ではない。

選ばれし生け贄として生きていくこととなるのだろう。



「初めまして」

神の一人が口を開いた。

愛想のよさそうな顔をした彼の着ているローブには薄く黄色が混ざっている。

他の三人はそれぞれ緑、青、赤で、色の薄さから黄緑、水色、ピンクにも見える。

赤のローブの神だけが女性だった。

「とりあえず、座ろうか。君と話がしたい」

そう言うと、黄色のローブの彼はフサの右隣の席に腰を下ろした。

それに続いて残りの三人も、席に着いた。

フサは四人全員が座った後に、まるで自分が立っていたことに初めて気がついたかのように座り直した。

全ての席が埋まると、召使いが部屋に入ってきて、それぞれに飲み物の入ったグラスを置いていった。

色の違いから、全員違うものだということがわかる。

フサのグラスの中身は鮮やかなオレンジ色をしていた。

「さて」

フサの左隣にいる神が声を発した。

「君は多分、いきなりこんな状況になってしまって困っているはずモナ。だから、とりあえずモナ達のほうから話を進めていきたいと思うモナ」

語尾にモナとつけるのが癖らしい。一人称もモナだ。

緑に身を包み、見る者に優しそうな印象を与える、穏やかな笑みを浮かべている。

「モナはモナーというモナ。あとの三人は、時計回りにギコ、しぃ、モララーモナ。君はなんていうモナ?」

「あ……フサと……申します」

酷く自分が場違いな気がしながら彼は答えた。

「フサフサだからフサか。わかりやすいな」

気の強そうな顔をした、ギコというらしい、青を身に纏った神が、グラスに口をつけながら言った。

フサはとっさにフサと名乗ってしまったことを後悔するべきかと悩み、やめた。

「フサ、お前がなぜここにいるかはもうわかってるよな?」

ギコが続けて話した。

「は、はい。一応は」

「ならいい。お前は俺達を退屈させないためにきたんだ。頑張ってくれよ?」

フサが返答に迷っていると、もう一人の神、しぃがたしなめるかのように言った。

「ちょっと、ギコ。そこまであからさまに言わなくてもいいんじゃないの?」

彼女は、人々の描く女神そのものかのような、美しい容姿をしていた。

モナーとも、モララーとも違う、艶やかな笑みを浮かべながら、彼女は綺麗な緑色の瞳でフサを見た。

「フサ、何か聞きたいことがあれば言って。何かあるでしょう?」

しぃの視線を感じつつ、一瞬間をおいてから、フサは答えた。

「俺はここに来てしまったから、選ばれてしまったから、もう帰れないんですよね? 残してきてしまった人たちはどうしてますか?」

心配しているだろうか、悲しんでいるだろうか。

「あぁ、それなら大丈夫よ。ここに来た人間は死んだことになってるから。やっぱりこれはあのファイルに書いておくべきよね。来る生け贄ほとんどが聞くもの」

いともあっさりとしぃは答えた。

「え? 死んだ?」

もしかして透けていたりはしないかと、フサは自分の体を見た。

「君が本当に死んでしまっているわけじゃないから落ち着きなよ。そうじゃなきゃ、前の生け贄が死んだら交代ってのが矛盾するだろう?」

モララーが口を挟んだ。

「あなたを連れてくるに当たって、人々の記憶からあなたという存在を全て抜き取ることもできるけど、それじゃあまりにかわいそうだから、亡くなったことにしておくの。死んだ時間を一年前にしておけば、周りの人の悲しみもだいぶ癒えてるでしょう? そういう風に、記憶を変えてあげるの。ついでに、あなたの死因は交通事故よ。今あなたの家族がどうしているか、視ることもできるけど、どう?」

質問の答えも聞かずに、しぃは指を鳴らし、召使いに水晶玉を持ってこさせた。

召使いに水晶玉を渡されたフサは、ゆっくりと、その中心へ目を凝らせる。

彼の家族は、彼が居なくても笑っていた。

それだけを確認すると、フサは水晶玉を召使いに返した。

「どうだったかは聞かないわ。そっと自分の胸にしまっておいて」

そう言うしぃの顔を、フサは見ることができなかった。



「さて、とりあえず今日はこのくらいにしておくモナ。フサ、他に質問があれば今の内モナよ」

「特に……ありません」

「そうモナか。何かあったらまた明日聞いてくれればいいモナ。君用の部屋は用意してあるから、好きなように使っていいモナよ」

言い終わるとモナーは立ち上がり、フサに手を振ると、奥の扉から出て行ってしまった。

「んじゃ、今日はお開きな。俺部屋帰って寝るから。じゃぁな、フサ。また明日会おうぜ」

ギコも立ち上がり、指を鳴らしたかと思うと、その場から掻き消えるようにしていなくなった。

気付けばしぃもいなくなっていて、残っているのはフサとモララーと召使い達だけになった。

「ちょうど暇だし、部屋まで案内してあげるよ。ついて来て」

モララーはグラスの中身を飲み干すと、フサの前に立って歩き始めた。

フサは、緊張してのどが渇いているはずなのに、出された飲み物を結局一口も飲まなかったことに気付きながら、モララーの後を追った。



彼らの歩く、廊下は長い。

案内無しでは簡単に迷ってしまうだろう。

最初のうちはフサも道を覚えようとしたが、途中でわけがわからなくなったのでやめた。

多分明日もあちこちにいる召使いが案内してくれるから平気だろう。

「緊張した?」

突然話しかけられて驚きつつ、フサは返事を返した。

「あ、はい。……自分でもまだ今の事が信じられません」

「そうだよな。だいたいそれが普通だよ。でも、どっちかというと落ち着いてる方だよ、君」

確かに、緊張してはいるが、取り乱しているわけではない。

「たまに途中で気絶したり、叫びだしたり暴れだしたりする奴もいるからね。逆に妙になれなれしいのもいるし。君は……うん、だいぶいい方だろう」

「ありがとうございます……」

叫びだしたくなる気持ちはわかると思った。なれなれしくなんて到底できないが。

「あんまり固いのも嫌だからね。丁寧語程度でいいよ。様付けしてくれれば」

茶色の瞳を悪戯っぽく細めながら、どこまで本気かわからない口調で彼は言った。

どう答えるべきなのか、フサが迷っていると、モララーが足を止めた。

「ここだよ。何か欲しいものがあったらその辺の奴らに言ってくれればいいから。慣れるまで大変かもしれないけど、一週間もすればだいぶ良くなるから。がんばれよ」

じゃあな、と笑いながらモララーは、近くの窓枠に足をかけた。

「あ、ありがとうございました」

モララーは後ろ手に手を振ると、窓から飛び降り、そこから飛び立っていった。

フサは、深呼吸をしてからドアノブに手をかけた。



     ◇ ◇ ◇



……疲れた。

とてつもなく疲れた。思ったより疲れた。

短い時間だったよな、多分。二時間くらい? 駄目だ、感覚ない。

やっぱ、凄いんだな。神様って。

でも、思ったより厳しそうとか偉そうとかいう感じはしなかったな。神々しさとか自然な威圧感はあったけど。

モララー様、モナー様、しぃ様、ギコ様だったよな。

モララー様とはうまくやっていけそう。いい人。いい神様?

モナー様は落ち着いてる感じ。一番年上っぽい。

癒し系の人って俺の近くにあんまりいなかったけど、ああいう人のこと言うんだろうな。

ギコ様のことはあんまりまだわかんないな。あっさりした性格してそう。体育会系かも。

しぃ様は……俺あの人苦手。

あの人の眼は……正直怖い。

あの緑色をまっすぐ見つめたら、金縛りにあったような感じになりそう。

さらに美人だから恐ろしさに磨きがかかってるね。

つーちゃんの怖さとは全く種類も次元も違う。

……つーちゃん。

あの水晶玉覗いたときさ、つーちゃんとフーちゃんが見えたんだ。

二人とも俺の大事な家族。見せてあげたいけど今写真ないんだ。

二人とも、俺がいなくても大丈夫そうだったよ。

こうなっちゃった以上、もう現世に未練はないね。

安心するべきなんだろうけどさ、嬉しくないんだよね。

なんでだろう。つーちゃんとフーちゃんが幸せなら、俺も幸せなはずなのに。

もう会えないんだよね。会っても俺のこと幽霊だと思うかもね。

でも、つーちゃんならきっとこれからも大丈夫だよね。俺、信じるよ。

なんで……こんなことになっちゃったんだろうな……



湿っぽくなっちまったな。

えっと……そうだ、この部屋俺の部屋なんだよな。

俺が住んでたマンションよりずっと広いし、家具とかも揃ってるし、かなり環境は良さそうだな。

アンティーク調な雰囲気で、温かみのある部屋じゃん。

ここで生活するの本当に俺なのかな?

こんな立派な部屋、正直入ったことないぞ。

部長に自慢したいな。無理だけど。

なんか疲れたから俺寝るわ。うわ、ベッドふかふかすぎ。埋まる埋まる。

じゃ、おやすみ。またな。



     ◆ ◆ ◆



召使いに連れられて、フサが昨日の部屋を再び訪れた時には、既にギコとモララーは座っていた。

「お、来たかフサ。お前も座れよ」

ギコが自分の右隣を指しながら言った。

「あ、失礼します」

フサが座ると同時に召使いが寄ってきて、目の前に昨日と同じく飲み物の入ったグラスを置いていった。

昨日飲めなかったものとは別のものらしく、今日は透明感のあるピンク色をしている。

飲んでみると、やや酸味の強い甘酸っぱさが口に広がった。

「昨日、あの後はゆっくり休めたかい?」

ギコの左側からモララーが尋ねた。

「はい。ゆっくりというかぐっすりでした」

「そうか。それは良かった」

フサの答えに苦笑しながらモララーは言った。

もう一度グラスに口をつけると、さっきよりも少しだけ甘みが増した気がした。

「なぁフサ。お前は何かスポーツやってるか?」

「最近は……特に何も。学生のころは剣道やってました。」

ギコの問いに考えながらフサは答える。

「剣道か。結構珍しいな。今までここに来た奴の中には2,3人くらいしかいなかったぞ」

「そうなんですか? そんなに珍しくも無いと思いますけど……」

「生け贄は世界中から集まるもの。世界レベルで見たら剣道はマイナーな方よ」

しぃが部屋に現れ、フサの右隣に腰掛けた。

「こんにちは、生け贄さん。ここでの生活には馴染めそう?」

しぃが微笑みながらフサに聞いた。

「あ、はい。大丈夫そうです」

「そう、良かったわ。何かあったら遠慮なく言って頂戴ね」

「ありがとうございます」

フサはその完璧な笑顔からなんとか視線をそらせた。



「おや、もう全員集まってるモナか。遅かったモナ?」

そう言いながら、慌てる様子もなくモナーが扉から入ってきた。

「君の部屋は気に入ってもらえたモナか?」

「はい。なんだかもったいないくらいです」

「そうモナか。良かったモナ。用意した身として嬉しいモナ」

微笑むモナーの顔を見ながらフサは、この笑顔の持つ温かさはあの部屋のものに似ていると思った。

「さて、昨日はあまりじっくり話せなかったから、今日はまずしっかり自己紹介から始めたいと思うモナ。フサ、お願いするモナ」

「はい、わかりました」

何を話すか考えながら、フサは口を開いた。



誕生日や血液型など、当たり障りのないものから始め、趣味特技など自己紹介の王道を経て、仕事、家族、休日の過ごし方など、思いつくものはほとんど話し尽くすと、今度は四人がそれぞれ、自身について語り始めた。

モナー、ギコ、しぃ、モララー。

司るのはそれぞれ優、力、美、智。

さらに細かく分類されるが、大まかに言うとこの四つ。

モナーが基盤を、ギコが自然を、しぃが生物を、モララーが秩序と理を創った。

そうしてできたのがこの世界。

そして、その世界を創った彼らは全員、卵から生まれた。

最初にモナーが生まれ、次にギコとしぃが、そしてモララーが生まれた。

生まれた時にはまだここはただの空っぽな空間で、年を重ねるごとに思い描いたものを創ることを覚えていった。

彼らはさまざまな試みをし、この世界を見守ってきた。

そして今に至る。



     ◇ ◇ ◇



俺は世界の創造について知っちまったらしい。

普通できる経験じゃないよな? 生け贄になるのとどっちが簡単だろうな。

皆俺に優しく接してくれるし、そんなに悪いことじゃないかもしれないな。

突然選ばれたことともう帰れないことは除いてな。

でも、昨日も言ったとおり、つーちゃん達が幸せなら、俺にはもう未練はないし。

こうして、俺の生け贄生活は始まったわけだ。

ところでさ、生け贄って名前良くないよな?

なんか不吉。もっといい名前なかったのか?

俺ってある意味神に選ばれし者なんだよな。生け贄よりずっと響きいいじゃん。

思ったより居心地いいし、次に選ばれる奴を一人でも救ってやるために、できるだけ長生きしてやるよ。

負け惜しみじゃないぜ? こんな生活普通できないぞ。

だから、負け惜しみじゃないって。

確かに、理不尽かもしれない。でも、相応の待遇はしてくれてるしな。

さて、また暇な時にでも、俺の話聞きに来てくれな。

ここで暮らす限り、そう簡単に話のネタは尽きそうにないからな。

だけど、お前も気をつけろよ?

橋の上に人がいたら、声をかけない方が身のためだぞ。

長生きしてやるって言ったからって、いつお前が生け贄に選ばれるとも限らないからな。


あとがきはありません。

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